第47話 勇者、部下を爆走させる



「暑いです、カーライルさん……」

「寒いと凍えてたのにこれか……まぁ、仕方ないがな」


 オッサン顔のブリザードを破壊する事しばし、見える範囲にはもう何もない。

 地面がブリードの溶けた後の水で、びしょびしょになってるくらいだな。

 ブリザードの数が減って行くごとに、辺りの温度が上がり始め、ファイアウェアの魔法を纏っていると汗ばむくらいだ。

 暑がるフランの魔法を解いてやり、俺自身のも解く。


「……まだちょっと寒いですね」

「まぁ、山の頂上だからな。ブリザードが残ってるせいもあって、平地よりは寒いだろう」

「耳の奥にまだ悲鳴が聞こえるような気がします……」

「……じきに消えるだろ。それよりもさっさと帰るぞ?」

「はーい」


 できるだけ早くこの山を下りたい。

 ブリザードのオッサン顔と、響き渡っていた悲鳴を早く忘れたいからな……。

 フランも耳の奥で、まだ悲鳴が聞こえるような錯覚を感じてるから、殊更早く降りた方が良いだろう。


「あー……」

「凍ってますねぇ……」


 山を下り、いつものように馬を繋いでいた場所まで戻って来ると、そこには綺麗に凍り付いた馬がいた。

 ここの近くにもブリザードがいたんだろうか?

 ちなみに、今回の馬は前回とは違う馬だ。

 前回の馬は行方不明だからな……。


「どうしましょう? ……これじゃ帰れません」

「うぅむ……放っておいても氷は溶けるだろうが……時間がかかるな」


 辺りはもう雪も降っておらず、先程と比べると随分暖かいから、凍っている馬はいずれ溶けるだろう。

 溶けた後の馬が生きていたとしても、使い物になるかわからないがな。


「仕方ないな……前と同じ方法で……」

「嫌です! 絶対に嫌です! あれ、結構恥ずかしいんですからね!? しかもカーライルさん、城下町に着いても降ろしてくれないし……アルベーリ様に変な誤解されましたし……」


 そうだったな。

 前回は、そのままの方が早いと思って、アルベーリの執務室までフランを抱きかかえて行ったんだった。

 妙な勘繰りをして来るアルベーリは正直うざかったな……。

 というかフランもその時、アルベーリの話に乗ってたじゃないか……同罪だろ。


「だとしたらどうするか……歩いて帰るには距離があり過ぎるぞ?」

「近くの村で馬を調達できませんかねぇ?」

「村と言っても、最寄りの村まで遠いだろ」

「むむむ……」


 俺一人なら走って帰るだけだから簡単な話なんだが、さすがにフランを一人、ここに置いていくわけには行かない。

 意味がわからないくらい丈夫なフランだから、一人でも帰っては来れるだろうけどな。


「……やっぱりあれしかないな」

「あれ? ……まさか!」


 フランは、俺がまた抱きかかえると考えているのか、凄い勢いで俺から離れる。

 そんなに嫌なのか……ちょっと傷付いたぞ?


「違う違う。抱きかかえたりしないぞ。別の方法だ」

「それなら良いんですが……」


 まだ半信半疑なのか、窺うようにして戻って来るフラン。

 くそう……そんな反応されたら、抱きかかえて走ってやろうかという、悪戯心が湧いて来るじゃないか……お胸も気持ち良かったしなぁ……。


「……はぁ……まぁ良いや。とりあえず別の方法で行くぞ?」

「どうするんですか?」

「……ふ」

「何か嫌な予感がポンポンと感じるんですけど!?」


 嫌な予感がポンポンってなんだそれは、楽しそうだな。

 フランの後ろに回り、ニヤリと笑ってから魔法を発動させる。


「ラン&ガン」

「……え? ひゃぁぁぁぁぁぁ!」


 俺の魔法がフランにかかった直後、射出されたかのように走り出した。

 この魔法は、掛かった相手をひたすら真っ直ぐ走らせる魔法だ。

 直線にしか走れない代わりに、尋常ではないスピードが出るので、こういう時便利だな、うん。


「おー、走ってるなぁ。やればできるじゃないか?」

「ひゃぁぁぁぁぁぁ! 勝手に走ってるんですよぉぉぉぉ! 何したんですかぁぁぁぁ!」


 フランの後を、俺も走って追いかけながら声を掛ける。

 走りながらも叫ぶフラン……よくその状態で喋れるな……舌噛むぞ?



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