第36話 勇者、部下をからかう



「しかしアルベーリ」

「お? どうした?」

「何故ここにいるんだ? 住んでるのはあの邸宅なんだろ?」


 用意された俺の部屋まで戻って、アルベーリに疑問をぶつける。

 城は息が詰まるから、邸宅を作ってそこに住んでるとか言ってなかったか?


「あそこは城より息が詰まるからな………実質、ベアトリーセを隔離するためだな……」

「そうか……」


 何となく、アルベーリに同情したくなった。

 あんな奥様が家で待ち構えている邸宅に、俺なら絶対帰りたくない。

 最初はああ言っていたが、結局城で寝泊まりしているんだろう。

 その方が執務が捗りそうだから、良いのかもしれないな。


「アルベーリは良いとして、何故お前までここにいる、フラン?」

「家に帰っても暇なだけですからねー。ここで暇つぶしですー」


 部屋に元々あったソファに寝そべって、気楽に答えるフラン。

 いくらなんでもくつろぎ過ぎだろ。


「はぁ……勝手にしてくれ。俺は風呂にでも入って来る」

「お、一緒に入るか? 背中を流してやるぞ?」

「オッサンと一緒に入る趣味は無いっ!」


 ついて来ようとしたアルベーリを引き剥がして、風呂場へと向かう。


「私となら入ってくれるんですかー?」

「……そうだな。じっくりと体を洗ってやるから、一緒に入るとするか?」

「嘘です、ごめんなさいぃぃぃ!」


 部屋の外について来てまで馬鹿な事を言うフランを、わざといやらしい目でお胸を見ながら言ってやると、謝りながらどこかへと走り去って行った。


「全く、恥ずかしがるならからかって来るなよな……」


 フランを見送って、一人呟きながら風呂場へと急いだ……これ以上変な絡まれ方をされるのは御免だからな。

 ……しかし、窮屈な食事を強要される奥様との出会いと言い、本当に休日って何なんだろうなぁ。



 翌日、休まらなかった休日を終えて、アルベーリの執務室で魔物の情報を聞く。


「今度の魔物も、魔法が効かない厄介な相手だ」

「跳ね返すのか?」

「いや、今回は無効化するだけだ。跳ね返したりはしない」


 前回といい、魔法が効かない魔物が多いのは何故なのか……。

 まぁ、だから戦える人間が必要だったという事か。


「見た目は可愛いのだがな……自分達以外の種族を見つけると襲い掛かって来るのだ。それでいて対処しようにも、魔法が効かないときた」

「確かに厄介そうだな。……どんな見た目だ?」

「兎のような耳と、ひよこのような体を持つ魔物だ」

「……想像してみたが……あまりよくわからんな」

「見ると一目でわかる。それ程可愛さに振り切っているな。しかしその見た目に騙されれば、ひとたまりも無く食われてしまうぞ」

「可愛さで戸惑わせて人を食うのか……凶悪だな。それこそ殲滅して良いんじゃないのか?」

「我もそう思う事はあるのだがな……こういう者もいるのだ」


 魔物の特徴を聞いている時、妙に静かだったフランをアルベーリに示されて見る。

 そこには、目をウルウルさせて泣きそうなフランがいた。

 ……ちょっと可愛いとか考えて無いぞ、考えて無いんだからな!


「カーライルさん……チックハーゼを根絶やしにするんですか?」

「いや……残ってても利益の無さそうな魔物だからな……」


 チックハーゼというのが魔物の名前らしい。


「そんな事無いですよ! チックハーゼは全魔族女性にとって、癒しの存在なんです!」

「だが、人を襲って食うんだろ?」

「人を食べる姿すら可愛い……それがチックハーゼなんですよ!?」


 人を食べる姿とか、グロ注意でしかないだろ。

 それでも可愛いとか、こいつの感性がよくわからない。


「と、このように言う者もいてな。殲滅するわけにはいかんのだ。……しかし、数が増えると当然被害も増える」

「だから間引いて数を減らすのか……」

「うむ。何を隠そう、ベアトリーセもチックハーゼが好きでな。よく捕まえては愛でている」

「奥様が……襲われたりしないのか?」

「その時は、片手で握り潰しているな」


 やっぱり奥様と腕試しをしなくて良かった……愛でる対象を片手で握り潰すような相手と戦いたくない。



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