第37話 勇者、部下の変貌に付いていけない



「今回もついて行きますからね。むしろ今回だけは絶対について行きます!」

「わかった、わかった。連れて行くから、そんなに意気込むな、うっとおしい……」


 チックハーゼを見られるという事で、異様にテンションの上がっているフランを落ち着かせる。

 本音は連れて行きたくないんだがなぁ……チックハーゼに見惚れて役に立たなさそうだし……。

 あ、いや待てよ……いつも役に立って無いのか……だったら連れて行っても関係無いな、うむ。



「ひぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……またか」


 王城から北へ、チックハーゼのいる村へ走っているが、前回と同じようにフランが馬の尻尾に捕まってる状態だ。

 アルベーリにまた魔法を掛けてもらったみたいだが、何か対策や改善をするという事はしないのか?


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「着いたか……ここにチックハーゼがいるんだな?」

「はぁ……はぁ……そう、です……」

 

 走る事半日、今回は今までよりも長い距離だったからか、ずっと馬の尻尾に捕まってついて来たフランは、息を整えるのに必死だ。

 その馬は俺が盾の魔法にぶつけて止めたから、また気を失ってるがな。

 馬を繋げ、目的地の山に入る。

 所々に木が生い茂っているから、道を見失うと迷いそうだな……まぁ、真っ直ぐ走ればどこかに出れるだろう。


「あ!」


 坂道を上っていると、途中でフランが横道を見て声を出す。


「どうした?」

「はぁー……やっぱり可愛いですねぇー……」


 俺がフランに問いかける声も聞こえないようで、そのままふらふらと横道に入って行くフラン。

 あいつ……迷子になったらどうするんだ……。


「ほーら、こっちですよー。おいでおいでー」

「キシャー!」


 横道に入ったフランを追いかけて行くと、木の傍でしゃがんで前方に猫なで声を出していた。

 ……ちょっと鳥肌が……。


「おい、フラン。それがチックハーゼか?」

「可愛いですねー。お利口ですねー。ほぉら、よしよしよしよしよしよしー」

「キシャキシャー!」


 俺の声を無視して、目の前の小動物に夢中な様子だ。

 多分、あれがチックハーゼで良いんだろう。

 フランの前にいる生き物は、確かに兎の耳が付いてるひよこだった。

 枯れ木のような細い足が長い事以外は、確かに可愛らしい姿だ……その牙が無ければな……。


「おい、フラン!」

「おー、お前は私の所に来てくれるんですねー。よーしよしよしよしよしー」

「フシャー!」


 フランにテコテコ近付いて来たチックハーゼは、フランが差し出した掌に乗ると、口を開けて凶悪な牙を剥き出しにした。

 甲高い鳴き声を上げながら、チックハーゼはフランの顔目掛けて襲い掛かる!


「おー、立派な牙も生えていて可愛いですねー」


 当のフランは、自分が危険な目に遭おうとしている事にすら気付かず、チックハーゼにメロメロだ。


「ちっ! この! ……ファイアランス!」


 襲い掛かったチックハーゼがフランの顔面に辿り着く前に横へ移動し、チックハーゼを蹴り飛ばす!

 俺の蹴りで空中を舞うチックハーゼに、追い打ちと魔法で追撃したが、当たる直前に兎型の耳に吸い込まれてしまった。

 ……そう言えば、魔法が効かないって言っていたな……こういう事なのか。

 魔法を吸い込んで無効化するという事なのだろう。

 地面に落ちたチックハーゼは、魔法が無かった事のように起き上がり、そのつぶらな瞳で俺を見る。


「ちょっとばかり面倒な魔物だな……ふっ!」


 呟きながら、剣を抜いて剣気を放つ。

 真っ二つになったチックハーゼは、少しだけピクピクしていたが、すぐに事切れた。

 ……生命力もそれなりに強そうだな……魔法が効かないのが面倒そうだ……バックミラーの時はひたすら割るだけの作業だったのにな。


「おい、大丈夫か。フラン!」

「あははー、大丈夫ですよーカーライルさーん。見て下さい、こんなに可愛いのがいっぱいー」


 チックハーゼが死んだ事を確認して、フランの方を振り向くとそこには、いたる所をチックハーゼに噛み付れて、ハイになった様子のフランがいた。

 ……何をしているんだこいつは……。



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