第28話 勇者、部下を思いやる



「まだ破片が残ってるだろ。それを好きに売って良いから、それで我慢しろ」

「たかが破片……はした金ですよ」

「さっき結構な値段で売れるって言ってたのに……こいつは……」


 仕方ないので、残っている破片に向かって魔法を使う。

 同じような魔鏡を作るのは色々と危ないので、今回は魔力を鏡に込めない。


「……よし、これでどうだ。この大きさと透明度の高い鏡なら、高く売れるだろ?」

「おぉぉぉぉ……凄い、こんなに綺麗に映ってる……ありがとうございます、カーライルさん!」

「はぁ……今回だけだからな、こういうのは。……持って帰る時に割るなよ」


 魔鏡の盾を2枚俺が持ち、後から作った大型の鏡をフランが持って、その場を後にする。

 よぼよぼの村長に意気揚々と報告したフランは、村の外に繋いでいた馬に乗って颯爽と王城へ向かう。

 ちなみに気絶していた馬は、しっかり目が覚めており、アルベーリの魔法の効き目がまだ残っているのか、血走る目のまま繋がれた縄を引きちぎりそうな勢いで暴れていた。

 ……もう少しで縄が切れて、暴れ馬が村に乱入するところだったぞ。


「……まぁ、こうなるよなぁ」

「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 王城に向かって走る傍ら、馬に乗ったはずのフランは、その勢いに振り落とされそうになった挙句、行きと同じように尻尾に捕まっている状態だ。

 当然そんな事になれば、持っていた大きな鏡は落としてしまうわけで……。


「鏡がぁぁぁぁぁぁ……私の小遣いがぁぁぁぁぁぁぁ…………!」


 尻尾に捕まったまま、馬と一緒に走り去るフランを見送る。


「はぁ……仕方のない奴だ……」


 溜め息を吐きながら鏡を落とした場所に戻り、当然割れて散り散りになっている鏡を集めた。

 もう一度魔法を使って一つに固め、王城へ一直線に去って行ったフランを追い掛ける。


「……あんなでも、一応部下らしいからな」


 それに、鏡を落とした後のフランは先程と違い、本当に涙を流して泣いていたように見えたからな。

 目から涙が尻尾のようにたなびくとか、初めて見たぞ。



「……生きてるか?」

「……モガモゴ……らいじょうぶれすよー……何とかいきれまふー」


 フランに追いついたというか、王城に着いた。

 そこでは、横倒しになって気絶してる馬と、城壁に上半身が突き刺さったフランがいた。


 下半身をブラブラさせて、這い出ようとするフランを助けながら、状況を分析する。

 ……多分、止まらなかった馬が城壁に激突したんだろうな、という事で分析終了。

 しかし……硬い石でできた城壁に突き刺さるとか、どういう頭の固さをしてるんだこいつは。

 アルベーリの魔法は効果が高すぎて危険だな。


「……んー……んー……ぷはぁ! 助かりました、カーライルさん」

「……まぁ、無事で何よりだ。ほら、これ……忘れ物だぞ」

「あー! ありがとうございます! 割れて無かったんですね! 無事で良かったぁ……」

「んー……まぁな」


 作り直したことは別に言わなくても良いだろう。

 小遣いのための鏡だが、それでもこれだけ喜んでくれるのなら、持って来たかいがあると言うものだ。

 ひたすらお礼を言うフランを連れて、俺達は王城へ向かった。

 お礼を言うのは良いが、顔が汚れてるし服も所々破れて、見えちゃいけない所が見えかけてるぞフラン。

 考えはするが、指摘はしない……眼福眼福……。


「ただいま帰りました、アルベーリ様!」

「うむ、帰った……どうした、その姿は?」

「城壁に突き刺さったらこうなってた」

「どうしたら、城壁に突き刺さる事ができるのだ……?」


 執務室に帰って来たら、フランの姿を見たアルベーリが訝し気な表情。

 まぁ、アルベーリの魔法のせいなんだけどな。

 というか今回はまともな服装なんだな……いつもの恰好だったらスルーするべきか、突っ込むべきかと、ここに戻る前まで悩んでいた俺は何だったのか……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る