第27話 勇者、伝説級の盾を作り出す



 フランが落ち着くまで、結構時間がかかった。

 鏡、作るんじゃなかったかな……?


「……落ち着いたか?」

「はい、すみません。ですが、こんな簡単にあっさり魔鏡を作ってしまうなんて……」

「魔鏡?」

「バックミラーから作った、魔法を跳ね返す鏡の事です。……半分だけですけどね」

「魔鏡ね……半分だけだが、魔法の効果を半減させる盾と考えれば良いか」


 そう言いながら、俺は魔鏡とやらに近付いて、おもむろに剣を抜いて横一閃。

 剣を受けた鏡は、割れる事無く半分になった。


「あぁぁぁ! カーライルさん、何をやってるんですか!?」

「何って、この大きさだと不便だろ? 盾で使おうと思ったから小さくしたんだ。……もう少し角を丸めないと切り口が鋭すぎて危ないな……ファイア」


 剣で斬った端を熱して溶かし、丸める事で素手で持っても大丈夫な鏡ができた。

 これで、細工を取り付ければ盾ができるな。

 鏡の盾はちょっと目立ちそうだが、まぁ良いだろう。


「ちょっとカーライルさん、何してるんですかダークランス!」

「ちょ、おい! お前こそ何をしてるんだ!」


 いきなり魔法を俺に向かって放って来たフラン。

 俺は咄嗟に持っていた鏡を構える。

 フランから放たれた暗黒の槍は、鏡に当たって静止。

 一瞬の後、闇の槍はフランに向かって撃ち返された。


「……へ? きゃぁぁぁぁぁ!」


 自分に跳ね返って来た魔法を、横に飛んで転がり何とか避けるフラン。


「……半分しか跳ね返さないんじゃないのか?」

「……はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」

「いや、死ぬような魔法を人に向けるなよ」

「カーライルさんはあれしきの事で死なないので良いんです。それよりその魔鏡……」

「魔法を完全に跳ね返したな」

「完全版の魔鏡じゃないですか! なんて物を作り出してるんですか!」

「そんな事を言われてもな……しかし完全版だと?」


 フランの説明によると、魔法を半分跳ね返す魔鏡は熟練の職人によって作られる。

 しかし、今俺がやったように、魔法を完全に跳ね返す魔鏡を作るのは、伝説で語られるような職人が作り出す物なのだそうだ。

 伝説級の職人が作る物を簡単に作れてしまった自分にも驚くが、これ、魔族の天敵のような盾を作ってしまったんじゃないだろうか……?

 アルベーリのような肉体を鍛えてる魔族ならまだしも、そこらの魔法しか使えない魔族相手には完全防御できるだろう。


「真・魔鏡下さい」

「……一応聞いておくが……何に使うんだ?」

「売ります」

「却下だ」

「どうしてぇぇぇぇ!? 今月お小遣いがピンチなんですぅぅぅ。お願いですから下さいよぉぉぉ!」

「ええい、まとわりつくな。気持ち良いだろうが!」


 泣き顔のフランが、自己主張の激しいお胸という凶器をくっつけるように、俺にまとわりついて来る。

 感触は素晴らしいのだが、泣き顔のフランが非常にうっとおしい……泣き顔なだけで、涙を流してるわけじゃないしな。


「小遣いがピンチなのは自業自得だろうが。どうせあのデザート屋に入り浸ったんだろ」

「美味しいから仕方ないんですよー……」


 俺から離れていじけたフラン。

 しかし、どれだけいじけようとまとわりつこうと、この魔鏡を売るわけにはいかない。

 魔族の天敵になり得る防具が市場に流れたら、場合によっては危険な事になりかねないからな。

 アルベーリあたりにでも渡して、宝物庫にでも封印してもらおう。

 ……あの王城に宝物庫があるか知らないが。


「カーライルさんがいじめるー……魔物退治の報酬を独り占めする気なんだー……良いんだー私はひもじい思いをしながら生きて行くんだー……」


 地面にのの字を書きながらいじけているフランがうざい。


「仕方ないな……」

「え?」


 俺の言葉にフランが期待するように顔を上げるが、魔鏡を渡すわけじゃ無いからな。



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