第39話
「それもたいへんね。でももうこの時期になったら、いくら足掻いてもしょうがないよ」
意外にもアイコは突き放すような言い方をした。
「まあね」
「ところで、ノッポはこっちに好きな人はいないの?」
唐突なアイコの質問に戸惑いを隠せないノッポは、
「そ、そんな人いるわけなか」と、怯えるようにいった。
「それならいいけど……」
「どういう意味?」
ノッポは心臓を鋭いナイフでひと突きされたような気がした。
「だって、好きな人がいたら、ノッポは九州に行くんだから、離れ離れになってしまうじゃないの。そんなの嫌だわ」
ノッポは、アイコがなにを考えて発言しているのか、まったくわからなくなってしまった。
「アイコは好きな人はいないの?」率直に訊いてみた。
「ううん、いないわ。だって、いまそんな余裕ないもの」
アイコは平然とした顔でいう。
「例えば、金太なんかはどう?」
ノッポは以前からたびたびアイコの行動でそれらしく感じたことがあったのを思い出した。
「うん。っていうか、金太は正義感があって、リーダー的素質も持ってると思う。わたしがイジメを受けていたあのとき、金太が救ってくれたから、いまこうしてみんなと楽しい中学生活を送れてるわ。そうでなかったら、いま頃別の学校に通っているかもしれない」
アイコは本当にそう思っていた。
「ボクもアイコと同じや。転校して来ていきなりイジメというもんば経験したト。慣れなか土地と慣れなか学校で戸惑っていた矢先のイジメやった。もう学校なん
行きとうなくなって、家に引き込んでいたとき、金太が半ば強制的にボクをこの小屋につれて来て、ロビンのメンバーに誘ってくれた。ボクもアイコと一緒で、金太には感謝しとう」
ノッポはアイコの言葉から当時のことを思い出し、感慨に耽るのだった。そして自分の気持ちをアイコに伝えることを諦めた。
そのとき入り口の扉が音を立てながら開けられ、金太とデーモンとネズミが姿を見せた。
「遅くなっちゃってごめん、ごめん」
金太はそういいながら、みんなに缶コーヒーと使い捨てカイロを手渡した。
「ここは暖房がないから、冷えるだろうと思って……」
小屋にいたノッポたちもそうだが、ほかのメンバーもすぐにカイロの封を切って暖を取り、続けて缶コーヒーのプルトップを開けた。
「ごめん。じつは、デーモンのお爺ちゃんの花壇がこの雪のせいで倒れてしまって、手伝って欲しいってデーモンに頼まれたんだ。それでこんなに遅くなっちゃった」
金太は、嘘をついていた。そんなことデーモンに頼まれてなかったのだ。先日ボーリング場でノッポたちをふたりにする作戦をデーモンが立てたのだが、結局は失敗に終わってしまった。そこで今度は金太が頭を絞って、小屋にふたりきりでいる時間を拵えたのだ。
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