第35話
「はい」
帰りの渡り廊下は、こんなだったかと思うくらい短い距離だった。
教室戻った金太は、合格したことをクラスメートに報告する。中西くんをはじめ近くにいた友だちが祝福してくれ、4人がかりで胴上げまでしてくれるのだった。
家に帰っても合格を知らせると、母親は相好を崩して喜んだあと、ひと安心したというように、すとんと肩のちからを抜いた。
母親に合格の報告をしたあと、父親と姉の増美にLINEを送った。どちらからも「おめでとう」という言葉が帰って来た。
気持ちが浮き浮きしてじっとしていられない金太は、夕飯の買出しに母親について市場に向かった。
「きょうは合格のお祝いだから、金太はなにが食べたい?」
母親が歩きながら訊く。
「トンカツがいい。それも味噌のが食べたい」
金太は即答した。
「味噌?」
「うん、ソースのはいつも食べてるから、きょうは味噌カツが食べたいんだ。それと、ハムの入ったポテトサラダ。それだけでいい」
金太の注文に答えるべく、精肉店で少し厚切りのロース肉を4枚とロースハムを100グラム購入し、その後2、3軒店を回って家に帰った。
夕飯は、父親がいつもより早めに仕事をすませて帰宅したので、金太の合格祝いの夕食は家族全員揃っての食事となった。
食卓には母親がはじめて挑戦した味噌カツ、それとポテトサラダ、味噌汁が並べられた。トンカツの上に直接味噌をかけてしまうと、文句が出ると嫌だと思った母親は、味噌ソースを別小鉢にした。しかし、はじめての味噌カツだったが意外に好評で、また今度もというリクエストがあるほどだった。
「よかったな、金太。頑張った甲斐があったな」
金太の成績をずっと黙って見守っていた父親は、あるときから急に頑張り出したのを知っているため、心からの労いの言葉をかける。
「うん。いま思うと、あの河合のお爺ちゃんに会ったのがよかった。もしお爺ちゃんと出会わなかったらと思うと、どうなってたかわからないよ」
そういいながらロースカツに手を伸ばした。
確かに、河合のお爺ちゃんが適切なアドバイスをしてくれたことは間違いないのだが、ずっと一緒に生活している父親がそれをできなかったことを考えると、少し複雑な気持ちになった。しかし、金太が合格したことでそんなちっぽけなことは忘れることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます