第4話
2
夏のある日のこと、金太がひとりで下校していたときだった。キャベツ畑の側溝にキラリと光る物が目に入った。金太が側溝を覗き込むと、それは表面に無数のキズがついた携帯電話だった。
金太はいまだに携帯電話を持たしてもらえない。母親が立てに首を振らないのだ。金太がいくら懇願しても母親はガンとして受け入れなかった。それでもみんなが持ってる携帯電話を簡単には諦めることができず、なんとかしたいと常々考えていた。
その矢先の出来事だったため、すぐに警察に届けることができず、秘密基地の机の引き出しにそっと仕舞い込み、そっと眺める毎日だった。ところが秘密基地で内緒で携帯電話をイジっていたとき、突然小屋にやって来たノッポに見つかってしまい、しかたなく金太は一部始終をノッポに話した。
以前から携帯電話を所持していたノッポは、その携帯電話をひと目見て、「これは機種が古いけん、おそらく誰かが捨てたんやと思うよ。その証拠に、送受信の履歴がなかもん」と平然とした顔でいった。ノッポのひと言に安心した金太は、利用できない携帯電話だけど、自分の宝物にすることにした。
ところが、金太が宝物にした携帯電話はとんでもない代物だった。信じられないだろうが、一般的な送受信はできない機種だけど、ダイヤルの操作でタイムスリップすることができる携帯電話だったのだ。
最初金太はそんなことのできる携帯電話だとは微塵も思わなかった。ところがダイヤルを押しているうちに見たことのない場所に自分がいるのに気づいた。
そこで大黒やの娘おはるに出会い、2週間後に再会することを約束すると、慣れないダイヤル操作に苦慮して、なんとか無事に家に戻ることができた。
ややこしい携帯電話を持っているというだけで段々と恐怖心が募りはじめ、ついにはノッポにタイムスリップのことを話してしまう。それを聞いたノッポは金太の話すことをまったく信用しなかった。そこで金太は一片の紙切れをノッポに見せた。
「かんだ はたごちょう一丁目 大黒や はる」と記してあった。
「なんね、この住所は?」訝しげな顔でノッポは訊く。
金太は、タイムスリップで神田明神の本殿の床下でかくれんぼをしていたおはると出会い、話の成り行きで2週間後にまた神田明神で会う約束をしてしまったことをノッポに説明する。
その後の話でノッポは一緒にタイムトリップをするはめになってしまった。はじめはこれまでに経験したことがないし、江戸時代なんてテレビでちょっと観たくらいであんまり興味がなかったのだが、金太と話をしているうちに、こんなチャンスはなかなか巡って来るものじゃないという気持ちが強くなり、徐々にその気になりはじめた。
計画通り2週間後にふたりはタイムトリップを慣行する。ところがいざとなるとやはりノッポは緊張し、それを見かねた金太は、秘密結社恒例のかわり玉をポケットから取り出すと、ノッポの口に放り込んでやった。
まったく想像のつかないノッポは、金太の指示通りにペンライト、電子辞書、100円ライターなど必要最小限のアイテムを揃えた。確かに、これから行こうとする場所といったらいいのか時間といったらいいのかわからないが、いえることはその時代に不似合いなアイテムは絶対に持ち込んではならない。それくらいはノッポにもわかった。
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