第4話 魔女さんです!

 そこにいたのは、わたしが倒した魔獣など物の数ではない、巨大なオオカミだった。雪でできているのではないかと思うほど、キレイな純白だ。

 さっき食べたウルフの、親だろうか? いや、あれは茶色かった。別の種だろう。


 雪色のオオカミは、獲物である人間を見据えている。


 すぐ側には、ひげ面の男性が倒れていた。わたしの知り合いの商人さんである。押さえている足から、血が滲んでいた。


「おじさん!」

「来るな、リッコちゃん!」


 オオカミは、彼を狙っているのだろう。


 来るなと言われても、放ってはおけない。


 シールドで身体を隠しつつ、商人の元へ近づく。


 オオカミも警戒してか、わたしに近づいてこない。


「大丈夫ですか、おじさん!?」


「誰か救援を呼んできてくれ。もしくは討伐隊を。こんな化物が街へ入ったら、どれだけ被害が出るか」


「まずはあなた治療が先です。待ってて!」


 わたしは、商人の側にしゃがみこむ。痛めている彼の足に、治癒魔法を施す。


 それを黙って見ている、オオカミではない。太い爪が、わたしの腕を切り誘うとした。


 瞬時にわたしは反応し、一瞬でシールドを構える。数一〇キロもあるヒーターシールドを、片手で。


 バイン、という音を立て、爪が弾かれる。


「えーいうるせーです! 黙って見てろですよ!」


 オオカミをどなりつけ、わたしは治療を再開した。

 商人の足に、治癒術式を込めた包帯を巻く。


「もう大丈夫です。とはいえ、毒が回っているかも知れません、念のため、ちゃんと治療院へ」


 わたしは傷やケガ、骨折などは魔法で直せる。しかし、毒までは治療できない。

 毒や薬品の知識がない人間がへたに解毒魔法を覚えると、対象を悪化させる危険があるからだ。


「ありがとう、リッコちゃん。でも任務は失敗だな」


「なぜです?」


 商人は、アイテム袋から小包みを取り出す。


「あのオオカミが塞いでいる道の先が、魔女の屋敷なんだ。オレは、そこへ荷物を届けようとしいたんだが」


「オオカミが邪魔で通れないんですね?」


 商人の装備は、オオカミによって破壊されてしまっていた。普段はこんな軽装でも、登れる森なのか。


「妙なんだ。あのモンスターは、魔女の使いだったはず。いつもおとなしいんだ。どうして暴れ出したりなんか」


 何か、事情があるようだ。


「おじさん。この荷物を、魔女に届ければいいんですね?」


 しかも、魔女が暴れさせているなら大ごとだ。


「なんだって、あのオオカミとやり合うってのか?」


「だって、他にできる人はいないでしょうから」


 呆れた様子で、商人は頭を下げてくる。


「頼む。オレは山を下りて、討伐隊を派遣してくる!」


「必要ないと思います。自分の足を治しに行ってください」


 冒険者は身体が資本だ。ヘタに治療を怠ると、後の依頼に響く。


「見殺しにするようで、すまない」


「平気です。では」


 再びわたしは、オオカミと向き合う。


 白いオオカミはヨダレを垂らし、クビを何度も振り回す。なにか、のたうち回っているようにも見えた。


 この現象には、見覚えがある。


「故郷の家畜が、同様の症状になりましたっけ」


 田舎の牛が、同じように暴れ出し、結局死んでしまった。そのときの原因は。


「寄生虫です!」


 オオカミの攻撃をかわしながら、わたしはオオカミの腹の表面を窺う。やはり、黒い斑点があった。寄生虫を飲み込んでしまった証拠である。

 病気をもたらす雑草を動物が食べてしまうと、このような症状が出る。誤って口にしてしまった可能性が高い。


「今、治してあげます!」


 盾を構えながら、わたしは腰を落とす。


 わたしが観念したと思ってか、オオカミが覆い被さってきた。


 すかさずわたしは、さらにしゃがみ込む。倒立の体勢に入った。逆さまになって、シールドを土台代わりにして背を伸ばす。


「行きます! シールド……キーック!」


 オオカミの土手っ腹に、わたしは蹴りを入れた。盾は関係ない。


 蹴りを放ちつつ、オオカミの腹部に雷の魔力を流し込んだ。


 大きな口を開けて、オオカミは黒いドロッとした物質を吐き出す。これが寄生虫の正体だ。


「これが悪さをしていた元凶ですね。お覚悟を!」


 足で、わたしは黒い物体を踏み潰す。


「コレで安心。さて、飼い主さんのところにお帰りください……おや?」


 わたしの頬を、オオカミが舐めてきた。懐いてくれたのだろうか?


「一緒に行きましょうか」


 オオカミを伴って、わたしは魔女の館へ向かう。


 道がひらけてきた。小さい小屋が、見える。


 壁じゅうに、見たこともない植物のツタが絡まっていた。いかにも、何か得体の知れない存在がいそうな家である。


「イグルーッ! ようやっと寄生虫を始末する薬草ができて……おや、イグルー?」


 赤いガウンをまとった豊満な女性が、館の入り口から出てきた。指に、白い液体の入った小瓶を摘んでいる。


「キミがイグルを治してくれたようだね。ありがとう」


 女性はわたしの存在に気づくと、瓶を大きな胸の間にしまった。わたしとオオカミが並ぶ様を見て、自分の出番はなくなったと悟ったらしい。


「あなたが、朱砂の魔女ソーマタージ・オブ・シナバー、でしょうか?」


「そうだ。私はソランジュという」


 朱砂の魔女と、エンカウントしてしまうとは。

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