万能職ですが、ぼっちです! ~ソロ狩り聖騎士(パラディン)は、孤高の赤魔道士と友だちになりたい~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 ボッチ聖騎士です。魔女さん、友達になりませんか?

第1話 今日もソロ狩りです。はあ……。

 わたしの冒険は、友人からの絶交宣言から始まった。


「リッコ、絶交しよう」

「え、絶交ですか?」


 幼なじみのヒラクちゃんから突然告げられた言葉に、わたしは愕然とする。


 どうしてだろう。なにか気に触ったのかな?


 一緒に冒険者の修行をして同期となった、わたしの数少ない友人だ。これからも共に冒険するのだと思っていた。それだけに、ショックも大きい。


「どうしてですか、ヒラクちゃん? わたし、あなたを守るために『聖騎士パラディン』の職を得たというのに!」


 リッコが纏うヨロイは、聖騎士の証である白銀の鎧だ。盾はドラゴンのウロコである。


「もう、リッコに守られてばかりは嫌なんだ! アタシも独り立ちしたい!」


 ヒラちゃんには、ヒラクちゃんなりに悩みがあったという。


 思い当たるふしは、わたしにもある。ずっとわたしは、やられる前にやれを貫いてきた。ケガも自分で治してしまっていた。彼女もヒーラーなのに。


「アタシはあんたを守れない! 助けてあげられない! 今までだって、アタシはあんたに一度も勝ったことがなくて。あんたは、強すぎる。怖いよ」


 怖い?


「アタシの操を司祭様から助けてくれたよね? そのときもアタシは感謝より、司祭様を半殺しにするあんたに恐怖が勝ってた。ごめん。ずっとそんな目で見ていて」


 少しだけ、ヒラクちゃんの本音が聞けた気がした。


「いいんです。あなたは側にいるだけで、わたしは勇気百倍なんですよ!」


「あんたのコミュ力が、マイナスに振り切れるんだよ!」


 巷で「コミュ力オバケ」と称されるほど、ヒラクは社交性が高い。


 わたしは何不自由なく、ヒラクちゃんを介して人と接していた。だから、ヒラクちゃんがいなければ誰とも話せない。


「でも、わたしはどうすれば。ヒラクちゃんがいなかったら、わたし、人とお話ができるかどうかも」


「あんたをそうさせてしまった責任は、アタシにある。だから離れたいの」


 人見知りの激しいわたしにとって、ヒラクちゃんはなくてはならない存在になっていた。


 だが、かえってそれがヒラクちゃんの重荷になっていたのだろう。


「あんたはいつだって、アタシを守ってくれた。アタシでさえ気づかないうちに。けど、あんたが自力で友だちができないことに、気づいてあげられなかった」


「違うんです!」


 何も、わかっていなかったのは、わたしだ。


「わたしには、ヒラクちゃんがいれば。ヒラクちゃんだけがいればいいんです」


「それじゃダメなんだよ!」


 決して、安っぽいプライドのためではないのだと分かった。


「もう、アタシはあんたに頼りたくない。あんたがいなくても、誰かを守れる存在になる! だから、絶交して。アタシのためだと思って。アタシがあんたをキライなんじゃない。アンタにあたしをキライになって欲しいんだ。もう頼らなくていいくらいに」


「そんな!」


「お願いだ、リッコ」


 ヒラクちゃんの意志は固い。リッコの説得も届かないだろう。


「知り合い一〇〇〇人だ。それか、アタシ以外にパーティ組みな。できるだけ多く。それまで絶交だよ」


「分かりました、ヒラクちゃん。今までありがとうございました」


「いつも守ってくれて、ありがとう」


 固い握手をかわした後、わたしたちは互いに背を向けた。




 あれから三ヶ月、わたしは未だにボッチのままである。

 


「ここから先へは、このリッコ・タテバヤシが行かせません!」


 白銀のヨロイを纏った両手を広げ、わたしは魔物に立ち塞がった。こちらの数倍はあろう背丈を誇る、黒いトカゲだ。いくら背伸びしても、威嚇にすらならない。それでも、街を守るため、この獰猛な爬虫類を止めないと。


「こんな大きな魔獣がいるなんて、聞いてませんよ!」


 数刻前、わたしは「街へ入ろうとする魔獣の討伐」を依頼された。


 このエリアは、モンスターの進行方向から大きく外れている。『魔女の森』を挟み、街からも遠い。モンスターからすれば、攻め込む旨味はないはず。森を迂回した方が楽だ。


 なのに、どうしてここまでの巨大な怪物が? 

 二階建ての家くらい大きい。腕や足は、丸太二つ分くらいの太さを持つ。群れと聞いていたが、この魔獣は単独で行動していた。はぐれたか、もしくはこの魔獣が群れのボスなのか。


 他の冒険者たちも、それぞれ別方向に現れたモンスターの撃退に当たっているはず。しかも、ウルフとかゴブリン程度の規模だというじゃないか。あらかたやっつけたという報告も聞いた。


 しかし、こんな巨大生物など確認していない。


 もしかしてわたし、ハズレを引いちゃった?


「考えるより、まず動く。ですよね?」


 こんな化物が森を抜けて街に入ってしまえば、大惨事は免れない。


 矮小な存在であるわたしには目もくれず、魔獣は森へ入ろうとした。森を突っ切って、街へ直進する気だろう。


 そうはいくか。全力で止めねば。


「逃がしません!」


 わたし魔獣の進行方向を、身をもって塞ぐ。ヨロイと同じ、白色のヒーターシールドを構えた。ホワイトドラゴンのウロコで作った、特注品だ。


「お覚悟を! すりゃああ!」


 わたしはモンスターの首に組み付く。人間でありながら、冒険者学校ではドワーフに腕相撲で勝ったんだから。身体能力には自信がある。


 だが、魔獣はあっさりとわたしを振り払った。


「おっと」


 上空高く、わたしは舞い上がる。だが、狙いを定め、急降下した。ヒーターシールドを、足場代わりに蹴り込む。ジャストな位置に、降下できそうだ。さすがは、ドラゴンのウロコを改造しただけある。


「シールド、キーック!」


 そのまま体制を整え、わたしは足を伸ばした。魔獣の脳天を踏み抜く。


 脳しんとうを起こしたのか、魔獣はズシンと白目を剥いて倒れる。


「あはは。一人でやっつけちゃいました」


 落ちてきたヒーターシールドを、上腕で受け止めた。そのまま装着する。


「あとは、これですね」


 わたしは、剣を抜く。魔獣の角を、スパンと切り落とした。これが、討伐の証拠となる。


「大きな角ですね。そのまま、魔法使いの杖になりそうですね」


 誰に聞かせるでもなく、独り言をつぶやく。


 わたしには、パーティがいなかった。


 いわゆる、ぼっちである。

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