第10話 ドラゴンの価値

落雷でドラゴンの脅威は去った。


すぐにでも外に出たい。

しかしいくら空腹とは言え、

さすがにこの雷雨の最中に外に出るのは躊躇した。


とりあえず出入口を開けて雨水を溜める。

この地域はミッションに選ばれただけの事は有り、

降水量が多い。


海水よりも川の水よりも、

雨水ほど有用なものは無い。


土砂降りの雨は簡単に乾いた喉を潤してくれた。



ドラゴンから逃走する時に捨てたリュックには釣り用の針と糸が入っている。


雨が上がって拾いに行ったが、

川の増水で流されたのか無くなっていた。


食料が無い。


地球とは連絡も取れないまま。

周辺の動物はすでにドラゴンに食い尽くされている。


唯一あるのはドラゴンの死体。

おそらくは食べきれない、何人分あるかも分からない肉塊だった。


サバイバルナイフで太ももの辺りの皮を切り取っていく。

厚い外皮は食べられそうにないが、肉質はまだみずみずしく食べられそうだ。


シェルター内に保管しておいた薪で火をおこし、肉を焼く。

塩コショウで味付けしたら美味しかった。


腐る前に残りも食べつくしたいが不可能だろう。

保存する手段も無い。


一週間分を目途に切り分けた。



翌日も肉を切りさばいていくが、キリが無い。

このままでは内臓から腐っていくだろう。

死肉を食らう動物も寄ってきそうだ。


マウは死体を焼くことにした。

焼いて川に流す。


とりあえず薪になる木を集めたまでは良いが、

どんなに集めても一度に焼ける量は知れていた。


それでもコツコツと死体を切り分けては焼いて行く。

毎日ほぼ焼くだけの日々。


数日後、マウの体がどんどんたくましくなってきた。


ナイフの切れ味はどんどん落ちている。

そのかわり、力で切り開いていく。

皮をはぎとり、肉に切れ目を入れ、骨を掴んで引きちぎった。


始めは肉が腐り始めて解体しやすくなったのかとも思ったが、

それだけではなかった。


薪を運べる量も、肉を持ち運ぶ量も明らかに増えている。


天球トラゴンの肉は地球人にとって最高の食糧なのだ。

だがそれを知る者は地球にいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る