第8話 放浪者

姿を消した天球人の痕跡を捜す。

地球からの観測で、まだ火は使っていないと思われる。

何を食べているのかも分かっていない。


ただ川に水を汲みに来ていた。

なのでマウは川沿いを上流に向かって移動してみる。

しかし深い森で見通しは悪く、天球人は見つからない。


容易に発見できない気がしてきたマウは引き返す。

引き返す途中で雨も降り始めた。


元居た下流は上流と違って草原が広がっているので見通しはいい。

草原を歩いていると森から例の巨大ドラゴンが出てきた。


雨音で足音は消えていた。


森には引き返せない。

川に逃げ込もうにも今はまだ浅く、シェルターもまだ遠い。


それでも注意深く周りを見ていたマウはいち早く接近に気付く事が出来た。


どちらの足が速いか。

シェルターまでの競走が始まった。


川を渡ろうとすればたぶん追い付かれる。

そういう絶妙なタイミングを狙われていたのだ。


とにかくシェルターに向かって川沿いを走るしかなかった。

ドラゴンは巨体だがマウより走るのは早い。

少しづつ距離が縮まっていく。


短距離走では勝てなさそうだが、持久力はマウが勝っていた。

ドラゴンのスピードが意外なほどあっさりと落ちていく。


かなり距離が縮まってしまったが追い付かれはしなかった。

十分な距離を取った所で川に飛び込み全力で泳ぐ。


背負っていたリュックは逃走を開始した時に捨てている。


ドラゴンは川を渡らなかった。

泳ぐマウを一瞥して森に帰っていく。



シェルターに戻ったマウが地球へ報告の無線を飛ばすが返事が無い。

故障を疑ったが原因は分からない。


地球では戦争が始まっていた。

中立を宣言している宇宙公社月光を大国が爆撃したのだ。


天球に脅威は無いと判断した観察派はこれ以上の干渉を阻止したかった。

一部の過激派が暴走し始めていた。


一方、中立を宣言する国への武力侵攻を無視する事は出来ない。

干渉派と観察派の対立は激化し、

そのどさくさに紛れて月光の打ち上げ技術も奪われ軍事利用されていく。

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