第290話 「『樹霊祭2』」

そうして祭りの当日。

今年もみけはフラメル邸から遊びにやってきた。


「おひさ、です。師匠さん、イリムさん」

「おう」


彼女はここまであるものに乗ってやってきた。

ゴーレム?

んなわけない。森の木々が大変なことになる。

そのあるものとは……魔法のほうきである。


「師匠さんのアイディアですが、これは快適ですね!」

「そっ、そうか」


魔女に箒、魔法少女に箒……これは鉄板の組み合わせであり破壊力ばつぐんだ。

動力源はとってもネクロマンシーだけどね。


「飛行の制御は本来かなり難度の高い術ですが、『霊動ポルターガイスト』であれば……と。」


ちなみに俺も『火葬インシネレイト』の噴射を利用して空を飛べないかと試したことはある。

◯イアンマンみたいにな。


……結果はさんざんで、ぐるぐるとネズミ花火のように地面を駆け巡りあやうく死ぬところだった。


まあ、リンドヴルムに乗ればいいので、無理して覚える必要はないのだが……。

それに『爆ステップ』で、一度限りの射出なら500メートルぐらい『かっ飛ぶ』ことができる。

あれはあれで楽しいんだよね、金をとれるレベルだと思う。


村の広場には、いくつもの簡素かんそな屋台や、それこそ広げた風呂敷に商品を並べただけのものまで。

雰囲気としてはフリーマーケットや学園祭だな。


「師匠さんのお店、今年は?」

赤酒ベリーワインを蒸留して、ブランデーもどきを作ってみた。けどお祭りだからね、割ってカクテルにして提供するつもりだ」

「……と、なると私の出番ですね」

「ああ、今年もお願いします。錬金術師アルケミストさま」

「おまかせあれ」


にこっと笑ったみけが、懐から流れるような手付きで青い小瓶を取り出す。

ちょん、ちょんと中身を小皿に落とすと、みるみる氷の塊が。


「アルマと会ったとき、初めて目にした錬金術がソレだな」

「へえ……それは初耳です」

「冒険者の宿で、熱々の紅茶を頼んでさ。ねこ舌のイリムがひーひー言ってたら、手品みたいに氷を出してくれたんだ」

「ふふっ、お姉ちゃんらしいですね」


そうして呟くように「……私もその場に居たかったです」と。


みけは、アルマと一緒に冒険したことはない。

だからか、いつからか彼女の話をみけにするのは避けていた。


でも、人はみなに忘れ去られることで本当に死んでしまう。

ここ5年。

家族も産まれ、冒険者も辞め、店の仕事に忙殺ぼうさつされ……気づけばあの旅のことも遠い記憶になりつつある。


そう思い最近は、みけに彼女の知らない思い出話をすることが多くなった。

みけも「知りたい」と言っていたので、あえて避けることはなくなった。


「では、今年も忙しくなりますね……まずは氷作り、そしてウェイトレスですね!」

「ああ、よろしく頼む」


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広場の一角の屋台、イリムが『土の精霊術』で作ったしっかりしたものだ。

彼女はそこで最後の仕込みに入っている。


「師匠、みけちゃん。今年も厳しい戦いの始まりですよ!!」

「はいっ!!」

「へいへい」


そうして彼女の言うとおり、お昼はまさに戦場だった。


俺と、イリムと、みけと。

3人で客をさばき、行列と戦い。

毎年思うが、ここはコミケ会場かよと。


「オォーイ、助っ人に来たぜ」と懐かしいトカゲボイスが真上から。


空を見上げると……というか広場のほぼ全員が空を見上げているのだが、そこには巨大で羽ばたく赤い竜の姿が。


「とうっ!」

「……はっ……」


そうしてその紅竜ドレイクから、ふたつの人影が飛び降りた。

かたや、大柄なリザードマン。

かたや、紫ローブの少女。


リザードマンはそのまま地面に着地を決め、ローブの少女は蜘蛛の巣のように鎖を展開し、ピタリと着地。


「よう、ザリードゥ。ユーミル」

「今年も……つーか去年より人多くね?」

「……あのパフォーマンスのせいだろ……」


そう。

毎年彼らには、相棒リンドヴルムによる空のタクシーでせ参じてもらっている。


自分で言うのもこっ恥ずかしいのだが、『世界を救った英雄』と『その仲間たち』そして『空飛ぶ相棒』は、いまや知らぬ人のいない存在だ。


いたるところで吟遊詩人の歌にうたわれ、いわばこの世界での有名人。

それをひと目みようとはるばる俺の宿を訪ねるものも多い。


……大樹海は危険がいっぱいなので、ソレの『護衛』も村の収入源となっている。

回れまわれよ経済、である。


ふたりの助っ人により戦場はだいぶ楽なものになり、波が過ぎてからは『イリムとザリードゥによる剣闘 (わりとガチめの)』や『ユーミルとみけによる人形劇(動力は秘密な)』などの出し物で祭りを沸かせた。


俺はいつもどおり、『紅竜リンドヴルムによる空の旅(5分で西方金貨5枚)』だ。

日本円に換算すると5万円のアトラクション、ボッタクリなお値段にはわけがある。


紅竜たるリンドヴルムは竜としてはそこそこランクが高く、プライドも高く、誰も彼も背に乗せるなど本来は言語道断。


それをなんとか説得し、なだめすかし……それでも日に5回が限度だ。

だから始めから高額な値段設定にすることで、混乱や不公平感を減らしている。


まあ、空を駆けるドラゴンを見れるだけで、ほとんどのお客さんは満足してくれる。

相棒もなんだかんだ、そんな憧憬あこがれに満ちた熱い視線を送られるのはまんざらでもないようだし。


……今年の祭りも、とても盛況である。


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※次話は5時ごろ、そして最後は6時ごろの予定です。

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