第268話 「エレーミアス射撃場」
【
さきほどまでした、ドスドスと大地を踏みしめる音は聞こえない。
代わりに紅の導師の、その名にたがわぬ真っ赤な衣装がバサバサと音をたてている。
「あれでよかったのかね、師匠クン」
「……ええ」
みけのことだろう。
できれば、目の届く範囲で守りたかった。
俺であれば、炎の使い手であれば、どんな状況からも彼女を『冬』から守ることができる。
しかし、みけは決断した。
「あの数は、あれだけの敵の数は……突破されます。誰かが、その穴を埋めない限り」
みけは優秀な錬金術師であり、少女でありながら頭脳はパーティ
特に有効となる『炎を扱える魔法使い』の頭数。
……それらを考え、みけは結論づけた。
「
そうして少女は、即座に決断を下した。
「みなさん、どうかご武運を! 必ず再開しましょう!!」
そうして
しばらくして、ゴバァアアアアアアアアア! という
「……まあ、魔女の城もヤベーし、あのデカブツじゃ入れねーし……いいんじゃね?」
「ユーミルは、いいのか」
「……ハッ、もうみけは大人だよ。強さも、デカブツに乗ってる限り私らのなかで3番手だろ」
そうだ。
あの
イリムも肩を叩きつつ、力強く答える。
「師匠、みけちゃんを信じましょう」
「……ああ」
「俺っちも11で初陣、12で初体験だ。それからすりゃニンゲンの成人は遅すぎるぐらいだぜ。安心しな、あいつはもう立派に一人前だ」
「……そのたとえはどうかと思うが、まあサンキュ」
しかしやはりというか、ユーミルが凄い殺気でとなりのザリードゥをにらむ。
「……おいトカゲ、もしみけに手ぇだしたら……」
「だーっかーらぁー! 俺っちはちんまいのは興味ねぇーっつの、師匠じゃあるめぇし」
「わっ、ザリードゥ! ここで叫ぶとツバがもろに、風に乗ってもろに!」
イリムが非難の声をあげる。
「……。」
こいつら……こんな時でさえ元気だな。
正直すごい。
あと俺の悪口もさらりと。
そんな俺たちを見て、ジェレマイアすら笑っている。
しかし、その笑顔には影もある。
どこか遠くを、昔なくしてしまったなにかを見るようで……、
「師匠クン」
「なんでしょう」
「仲間とは実にいいものだ。決して、失わぬようにな」
「……はい」
ジェレマイア、彼の仲間は黒森に奪われた。
みな若く、元気で、波に乗り……そして敵を間違えた。
彼の日記『赤表紙本』のなかでもその前後は空白が多い。
ときたま走る文章は短く、そして強烈だった。
殺す、必ず殺す。
あらゆる言葉で、
彼の今の振る舞いからはとても想像できないが……彼も『炎の使い手』らしく、煮えたぎる感情を
「まあ、ということで手始めに、道を邪魔する障害を片付けるとしよう。――ビンゴ!!」
ジェレマイアが指を突き立てた。
前方に舞う、
「ビンゴ! ビンゴ!!」
そうして、彼に指さされた魔物はことごとく氷の破片となって砕かれていった。
高速に、多重に射出された――雨のような『
「おおっ、さすが師匠の師匠ですね!」イリムが
「へえ、そんなふうに思ってくれてたのかい?」
「ええ。あの本がなければ死んでました」
それは正直な気持ちだ。
『
俺の言葉に気を良くしたのか、ジェレマイアが
「ふむ。では弟子らしく、ここは師に任せたまえ。
チカラを温存せよ、ということだろう。
それはありがたいのだが……前方には、湖面に沸き立つ蚊柱がいくつもいくつも。
あの粒の、ひとつひとつが
「しかし……多いですよ」
「ハッ」
彼はさらに笑った。
心底嬉しそうに、そして
と、同時に彼の背後に『
数えるのもおっくうなほど、ざっと見ても100は下るまい。
「たかだか小バエの群れ、紅の導師の敵ではないよ」
その後の戦い、いや一方的な
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※明日はお昼か夕方ごろに地図回を投稿、夜の8時ごろに次話を投稿する予定です。
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