第168話 「幼女《ツインテ》同盟」
つよく清らかな朝日が窓から射し込み、まどろみから目を覚ます。
隣には丸まったイリム。
ケモノのミミをかるく、ほんのかるく撫でると「……ううぅん」なんて猫撫で声。
今日はいよいよ旅の1日目、自由都市の領主との交渉に向かう。
そろそろイリムを起こして、準備をして……、
バーン、と寝室の扉が開かれ、みけが部屋へ飛び込んできた。
「師匠さん! 昨日の話は納得してませんよ!!」
「うわぁあああ!」
「……うん、師匠……」
そうして目を擦りこすり、隣の最愛の人が体を起こす。
基本、生まれたままの姿で。
「きゃああああああああ! 不潔、不潔ですおふたりとも!!」
朝から騒々しい目覚めであった。
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みけが怒っていたのはこういうことだ。
俺は「あの日」から一貫して、この少女の旅への同行を認めていない。
明日旅立つ、という日になってまでみけは引かなかった。
最後の交渉です! と俺に説得を重ねてきたが、俺はどうしても認めることができなかった。
みけが、どうしてもアルマと重なるのだ。
あれから2年。
みけの体はほんのちぴっと成長し、そして魔導は
いや、成長したなんてものじゃない。
別人である。
アスタルテいわく、彼女の存在濃度は9近いという。
ムチャクチャである。
そして、恐ろしいことにこれから成長期だという。
ここから本格的に伸びだすのだと。
彼女は今14歳、今年中には15になるがつまりまだ未成年だ。
そんな歳ですでに最上級一歩手前などありえるのか?
「それが
とアスタルテはケラケラと笑っていたが、俺は納得できない。
第一、ステータスは高かろうと経験が、と言うと、
「我とぬし、そして鎖の少女との訓練で十分に仕上がっておる」
と。
どうもあのロリドラゴン様はずいぶんみけを買っているようだ。
同じツインテール同士通じ合うものでもあるのか。
そういえば、俺があの地獄の特訓期間に慣れてきたころ、いつの間にか彼女らは親しくなっていた。
アルマの墓の近くで、庭のベンチで。
よく雑談に興じていたところを見かけた。
やはりツインテ同盟か。
でも、やはり、納得できない。
錬金術すら習得し、髪の色も似ている。
ムチャクチャ美人になるであろうところも似ている。
フラメルの娘も継承した。
どうしても、アルマと重ねて見てしまう。
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フラメル邸の応接間にて、一同ぐるりと勢揃い。
そうして、机をはさんで主役のみけとアスタルテ。
「我は、この娘を推そう。これから伸びる逸材でもあるし、なにより。みけには経験が足りん。世界も見るべきじゃ」
「師匠さん、みなさん! 【四方】であるアスタルテさまのお墨付きですよ!」
みけはどうだと言わんばかりの自慢げな顔で、一同を見渡す。
しかし反応はさまざまであった。
「……みけの実力は凄い、それに私が旅に出たのは13のころ。リディ姉にいたっては11。早すぎるってことはない……」
「俺っちも同じころだな、傭兵なったの」
仲間のふたりは自分の経験からか賛成。
みけの先生を勤めたじいやさんもニコニコと後ろで笑っているあたり、彼女も賛成だろう。
「私は、反対かな。私がこの世界に飛ばされたのは15だけど、正直中学のころだったら絶対死んでる」
「私も心配ですね。みけちゃんが凄いのはわかりますが、やっぱり大人になってからですよ!」
仲間のふたりはみけの年齢からか反対。
俺もこちら派だ。
「……つまり、ぬしらはみけが安全なら文句はないのじゃな?」
「うーん、年齢の問題もあるが」
「よかろう。では今回は留守番じゃ」
「――アスタルテさま、なんで!?」
「その代わり、その間にこやつに『
じゃから次から、同行させよ」
アスタルテはほとんど命令ともいえる口調でそう告げた。
この世界の最強格、四方の彼女のつよい物言いに、この場で反論できる者はだれもいなかった。
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みけはなんだかんだ最後までぶーたれていたが、ツインテ同盟のアスタルテに「なに、帰ってきたころに向こうが頼み込むほど成長しておればよい」と笑っていた。
俺へ付きっきりで修行してくれたぶんの時間を、すべて彼女へ割いてくれるようだ。
そうなればレベルアップもずいぶん早まる……だが。
つよさ以外の問題もあるだろう……と俺が不満顔をしていたからだろう。
「みけも、戦力として必要じゃ。有能なモノはすべからく揃えねばならん。……我らがしておるのはそういう戦いの準備じゃろう?」
「……けどさ、」
「それを抜かってヒトが滅ぶのは許せん。氷に閉ざされた世界など見とうない」
「……。」
確かに、そうなればみけも結局死んでしまう。もちろんみけだけでなくみんな。
「……まあ、とりあえずは頼んだ」
「おうとも」
こうして俺たちはみけ抜きの5人で、自由都市へと旅立った。
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そうして5分後。
俺たちは自由都市のラザラス邸に勢揃い。
大陸の南東から、大陸の南西へ
あいかわらず『帰還』の門はムチャクチャである。
現在、フラメル邸とラザラス邸は繋ぎっぱなしで、助けたまれびとの移送や各地の支部の連携に役立てている。
もちろんどちらにも『検知』の結界が何重にも張り巡らされている。
抜かりはない。
「じゃあ行くわよ」
「ああ」
ラザラス邸を後にし、領主との面会のため石だたみの街道をすすむ。
先頭はカシスで、彼女の揺れる黒髪を眺めつつ。
……そう。
あのあと、アルマが亡くなってからの
交渉や探索の要であり、げんに
そしてそうしたパーティの方が多い。
魔法は貴重なのだ。
「そういや結局、リーダーは師匠でいいんだよなァ」
「ええっ、俺よりザリードゥの方が経験は……」
「俺っちは一匹狼な時期も長いからなぁ、まとめるには向いてねぇ」
「私は、師匠がいいと思います!」
「……私も賛成だな、だってよ……」
「うん?」
ユーミルが、彼女には珍しくかすかに笑っている。そして俺の目をまっすぐに見つめながら口にした。
「……まれびと、オマエから始まって、オマエがみんなを集めてきたじゃねーか、そーゆーのをリーダーって言うんだよ……」
「あっ! 私が言おうとしたことを!?」
「そうか」
まあ、ゲームじゃないんだしリーダーとは一番偉いわけでも、一番強いわけでもない。
現実には雑用や面倒事をなにかと被るもんだ。
俺はそういうのでいいや。
そうして、他の街より明らかに豪華な街並みを楽しみつつ仲間と雑談していると、目的地たる領主の館、カナール邸にたどり着いた。
レンガ造りで、威風堂々とした造り。
正面から見るとザ・四角である。
堅牢な門の前にはいつかの執事さん。
領主の冒険者時代からの仲間で元
スッ、と流れるように深々と一礼され、こちらも思わず深く会釈をする。
「ではみなさん。領主さまがお待ちであります」
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