大乱闘スマッシュ四方ズ「アスタルテVS勇者」

見渡す限りの荒野、そして北にはそびえんばかりの山々。

これらの山々は、すべてある幼女の手によるモノである。


【土のアスタルテ】


真に偉大な竜エンシェントドラゴンであり、現存するそれのなかで最強。

四方の一角にも数えられる。


そんな彼女と対峙するふたつの影。


勇者と呼ばれる派手な装いの青年と、

賢者と呼ばれる地味な装いの女性である。


「……はるばる北方までご苦労なことじゃな」

「あれえ、土の方じゃありませんか。

 こんななにもない僻地でどうしたんだ?」


勇者はヘラヘラと笑いながらアスタルテを挑発する。

おそらく両者、すべてわかったうえでのやりとりだろう。


「十字路では世話になったの」

「ふうん?」

「つまらぬ玩具がんぐで我を殺せるとでも思うたか?」

「やー、記憶にございません」


「ようも我が山脈を削り落としてくれたのう」

「それも記憶にございません」


「そうか」


アスタルテが言い終わるな否や、勇者が巨大な岩に潰された。

彼のいたあたりに、岩石がいくつも殺到したのだ。


ひとつひとつが、30mはあろうか。

それが彼を真上から爆撃した。


何度も、何度も。

攻撃がおこるたび、切り裂かれた空気が逃げ場をもとめて弾き飛ばされる。

あたりが爆風と砂煙に包まれる。


「まあ、そうじゃろうて」


アスタルテは呟く。

そう。

こんな程度の挨拶で死ねるなら【四方】になど入れない。

それがたとえ末席であろうとも。


砂煙がざぁーっと晴れる。

風の力、風精の力。


そうして勇者は立っていた。

彼と賢者の立っているあたりだけ、なんの破壊のあともない。

すべての岩石をその剣で切り裂いたのだろう。


「あぶねーじゃねぇっすか、土の方」


彼の手には奇怪な剣が握られている。

刀身がバキバキに折れ、曲がり、螺旋らせん状に複雑怪奇ふくざつかいきな形態をしている。


みるものが見ればこう言うだろう。

まるでハンドミキサーのようだと。


事実、勇者がスピカに頼み作らせたその剣の名は『獅子王の剣レジェンド・オブ・カシナート

アダマンタイトの『絶対破壊不能』特性を悪用した、ミキサー剣である。


「そうよ、ソレ。その剣で破壊された跡が我の大事な山々についておった」

「へーえ」


「先の十字路での襲撃、山脈を破壊しての冬の領域の拡大。

 もって宣戦布告とみてよいか」

「まあ、いいですよ」

「よういうた」


直後、勇者が消し飛んだ。

否。

あまりに凄まじい速さで岩石が打ち込まれ、あたり一帯が消し飛んだ。


アスタルテが得意とする攻撃術、『隕石メテオ』である。

ただの一撃で周囲の地形を巨大なクレーターと成す。


一撃で街を破壊しうる。

『核熱』に比肩する大規模破壊魔法である。


アスタルテ自身は地下に潜り、地脈を利用し離脱。

遠くからその光景をながめる。


「……どうじゃろか」


彼女の呟きは、これで倒せたか、という意味ではない。

コレにどう対処したか、である。


魔法か剣技かあるいはそれ以外か。

『眼』を限界までひらき、観察する。


そうしてまた、ざあっと不自然な風が吹きぬけ砂煙を洗い流す。

クレーターの中央で、勇者がこちらに手を振っている。

ヤッホー、などという意味のわかぬ叫びも。


魔道具アーティファクト、そうさね。おそらく……」


と彼女は勇者が無事だった理由を推察する。

賢者がいなくなった理由も推察する。

今の攻防だけでいくらか絞れた。


と、遠くの彼が一歩踏み出した。

直後、彼女の背後に彼が現れる。


「よう婆さん」

「ほう」


勇者の得物が唸りをあげ回転し、アスタルテに迫る。

彼女の自動防御オートガードである『土殻シェル』が即座に形成され、当然のごとく破壊される。

文字通り、ハンドミキサーで豆腐をかき回すがごとく容易に。


「やるのぉ」


今度は意識的に防御を形成、力を込めて『盾』を展開する。

ガチン、と数瞬防御に成功するが、すぐさまそれも割り砕かれる。


そうなる直前、跳躍力と足元に形成した土のカタパルトで緊急避難。

アスタルテの立っていた地面が、ぐしゃぐしゃに撹拌かくはんされている。


そうして勇者は返す手でこちらへ一閃。

その際、刀身が紫電を纏っているのを彼女は見逃さなかった。


即座に『盾』を多重展開。

その数およそ百。


「消し飛べッッッツツツ!!

 ―――『ギガ勇者スラッシュ』!!!」


回転し咆哮する刀身内から、巨大な雷電が膨れ上がりそのままこちらへ叩きつけられる。

遠くから見れば、巨大な『紫電の刃サンダーブレード』にみえただろう。


アスタルテの『盾』が次々と砕かれ、百あった盾はすべて、その威力を減らしたにすぎない。

だが、その剣先を彼女はゆうゆうと受け止めた。


ありえないほど硬質な『鋼柱』が、地面から幾本も走り『紫電の刃サンダーブレード』を受け止めていた。


「ずいぶん手の内を見せてくれるんじゃの」

「あれま」


「『縮地』、それになるほどの。精霊を道具扱いか」

「だーって俺の言うこと聞いてくれないんだもん」

「ハッ」


そうなのだ。

勇者がさきほどから行使している『風』や『雷』は、精霊の力だ。

しかし、彼を精霊術師とはとてもいえまい。


「すべて、あの小娘に作らせた魔道具アーティファクトじゃろ」

「ああ、風起こす用、電気起こす用。ほかにもあるぜ?」

「なっさけないのう」


どこぞの男は、まだまだ未熟なれど精霊術師だ。

精霊の信頼を勝ち得、それに応え、さらに信頼を得……。


その循環で力を育てている。

成長している。


それを目の前の男は放棄した。

簡易な道具に頼った。

連れが優秀すぎるゆえ、それに頼った。


魔道具まみれアーティファクター】の名は伊達ではないということだ。


いいだろう、この青二才を徹底的に教育してやろう。

獰猛にアスタルテは笑う。


周囲の、いや。

大地の精霊をすべからく励起れいきする。

遠くの山脈までが唸りをあげ、マグマを吹き出すヤツまでいるぐらいだ。


これだけの力を行使するのは久方ぶりだ。


心が踊る。

高揚する。


――そう、本来。

竜とは戦いを好む存在モノであるゆえに。



その日、ただでさえ荒れ果てた北方荒野に、その大地に。

いくつもの新たな傷跡が作られた。

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