船上小話 「俺は、絶対に死なない」
※元々はすぐ次話にサクッと飛ばす予定で、急遽追加した合間の話となります。本作的には異色の回になるのかな……。
※微かに性的な描写があります。
苦手な方は飛ばしても大丈夫であります。
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「私も、一番大事なひとはあなたです。……大好きですよ、師匠」
ぐいっと、ただでさえべったりした状態から、さらに体を預けられる。
彼女の、ヒトよりすこしだけ高い体温が、熱が、見張り台に吹く海風によって奪われた体温を癒やしてくれる。
そうして体の芯からもこんこんと、激しい熱が湧いてきた。
そうか。
そうだよな。
告白したんだ。
今まで大事だ、大切な奴だとイリムを見ていたし、命どころかすべてを預けられるぐらい信頼している。
そうして俺は彼女を守ると決めた。【槍のイリム】として名声を馳せ、妹と再開できるよう。
だからそうした大きな使命感で隠されていたというか、世界がやばいからフワついている場合じゃねえとか。
そうじゃねえだろ。
そうじゃねえんだよ。
たぶん、ずっとずっとまえから、彼女のことが好きだったんだ。
大事がデカすぎて意識が隠れてしまったんだ。
たまに聞かれても俺はケモナーじゃねえとかロリコンじゃねえとか。
自分を言い聞かせていたんだ。
でも、そういうのはやめよう。やめだ。
俺はイリムが好きなんだ。心の真ん中から愛おしいんだ。
そのことに気がつくともう歯止めは効かなかった。
「……えっと、師匠。こうしててもとっても幸せですが……こういう時は男性のほうから……」
アタフタと戸惑うかわいい顔を引き寄せ、そのまだまだ小さな唇をふさぐ。
とても優しくて、とても柔らかで、とても愛おしいものと己を重ねる。
「……うん……」
舌を入れたりだとか、そういうのはまだナシだ。
だって彼女は初めてかもしれないし。
しばらく、ほんとうにしばらく。
それからしばらくがたっぷり過ぎたころ、ようやく互いにわかたれた。
「……へへっ、師匠は上手ですね」
「いや、どうだろうな」
「……私は、初めてです」
「そうか」
「……師匠は、前の世界では……」
彼女のことばを、そのことばを漏らすうすい桃色を、むりやりふさぐ。
今度はディープなほうだ。
互いのやわらかで、湿ったところをヘビのように絡める。
案の定イリムはすこしすると呼吸がつらそうに、元々赤くそまっていた顔をさらに茹でダコのようにしている。
「――ぷはっ!!」
「ははは、顔真っ赤だぞ」
「もう、師匠! 質問に答えて……」「俺はもう、この世界の住人だ。前の世界のことはどうでもいい」
言葉に言葉をぶつける。
そして、その言葉は彼女にこそ初めて告げるべきだと思っていた。
「もし帰れる手段が見つかっても、明日にもこの危険な世界から逃げ出せるとしても、俺はこの世界にいる。逃げない。なぜならイリム、君がいる世界がここだからだ。君がいない世界に興味はない」
「……でも、それで師匠が死んじゃったら」
「俺は絶対に死なない」
「……でも、」
「俺は、絶対に死なない。約束する」
真剣な目で、まさしく至近距離で彼女のくりっとしたキュートな瞳を見つめる。
戦いのときは獰猛に、そして悲劇に沈む者を救うときには慈愛に満ちて。
そんな彼女の、ふかくやさしくまあるい瞳は、どの世界にもまたとない宝石である。
「……ふふっ、わかりました。それに師匠は死なせません。なにせ私がいますからね!」
ぎゅっ、と痛いぐらいの抱擁。
いや真実痛い。
けれど、この痛みこそ彼女の証であった。
「師匠、私の最初の初めては師匠に奪われちゃったわけですけど、もうひとつのはどうですか」
「……うん?」
「……へっ?」
イリムの言葉に一瞬固まる。
というか脳がフリーズする。
「……その、そういうのはまだ早いんじゃ」
「私は成人して2年、むしろ遅いぐらいですよ」
あっ、そうか。
いやしかし。
「入るの?」
俺の至極単純にして素朴な質問は、下腹部への強烈なブローで返された。
そのまま、まさしく返答の余地なく意識がフェードアウトしていく……。
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そうして目覚めると、なぜか船の客室、そのベッドで寝かされていた。
背中からゆったりとした揺れを感じ、そしてドアの前にはイリムの姿。
後ろ手で、ガチンと鍵がかけられる音。
「……師匠は怪我をしてですね、私がここまで運びました」
「えーっと、その」
「ラビットさんに頼んだら、客室を貸してくれてですね」
「その、なんだ……」
「私が介護してあげると、そういうわけです」
イリムはゆっくり、ゆっくりこちらのほうへ。
さきのせりふとは裏腹に、体も顔も、歩みも緊張している。
――イヤイヤ、しかし、さすがにたまに娘のようにみていたこともあるし、理性はブレーキを命じている。
だってその、いろいろ、ほんとうにいろいろマズイんじゃないか。
そうして気付けば、イリムは仰向けの俺を逃しはしまいと覆いかぶさってきた。
高い体温、ケモノのような。暖かくて、熱くて、
吐息と、彼女の匂いが呼吸にのって次々と。
正直、理性は限界だった。
そうして、その決壊の一押しは目の前の少女から。
「――師匠、ふたつめのも、私に教えてください」
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