第127話 「海でやってこい」

「いくぜ俺っち!地上神罰の代行!!

 ――――神の怒りラース・オブ・ゴッド!!!」


ザリードゥが放った一撃。


凄まじい輝きに目がくらみ、なすがままに光の爆発にさらされた。

あの熱量、あの奇跡の直撃にさらされまさか無事ではすまないだろう。


そうしてゆっくり目を開けると。

すべての敵だけが吹き飛んでいた。


あの大技を放ったザリードゥはもちろん。

すぐ近くのイリム、カシス、アルマも。

船上で奮戦していたラビット達も。


もちろん俺もユーミルも。

すべての味方が無事だった。


船に貼り付く敵はいまだ健在だが、もう脅威になるものではない。

そうして、結果のわかりきった戦いが再開された。


------------


「すごいですトカゲさん!」

「カッコよかったですトカゲさん!」

「惚れました抱いてください!」

「ちょっとアンタ、私が先ですよ!」


トカゲマンはもてもてであった。

確かにあの窮地、あの場面を一発でひっくり返したあの一撃には俺も惚れた。

今ならヤツに掘られてもかまわない。

そう錯覚するほどの一撃だった。


しかし当のモテ男はものすごく嫌そうな顔をしていた。


「俺っち、ちんちくりんは対象外だから」

「ええええっ!」

「ひどい! さいてい!」

「乙女をもてあそぶの!?」


非難轟々ひなんごうごうである。

よくみると男のラビットも混じっている。

まあかわいいショタっ子にしか見えねえしな。

心は女の子なのだろう。


「つーかよ、こたびの戦のヒーローはもうひとりいるだろ」

「そうですよね!」

「クラーケン退治の英雄ですね!」


トカゲ男の一声で、彼に群がっていた群衆が一斉に踵を返した。

……こちらの方へと。


「すごかったです師匠さん!」

「カッコよかったですよ師匠さん!」

「惚れました抱いてください!」

「ちょっとまたアンタ!? 私が先ですよ!」


わいのわいのとチビ種族に群がられる。

見た目こんなのにきゃいきゃい迫られると、戸惑いと、背徳感と、あと変な領域が啓かれそうになる。

そうして気がついた。


凄まじい殺気が俺を貫いているのを!

その視線を恐る恐るたどる。


にこにことほほ笑むイリムさんであった。


「ええとな、その、イリム」

「師匠、よかったですねー。また感動しちゃいますか?大喜びですか?」


いやいやいや、違うって!

イリムに変態扱いされるのだけは我慢ならない。

べしり、と群がるウサ耳たちを払いのける。


「どうしたんですか師匠さん!?」

「怒りましたか師匠さん?」

「もしかして初めてではずかし、」


「あのな!」


一喝する。

びくり、とうさぎたちは固まる。


「俺の一番大事なヤツに誤解されるから、止めてくれ」


そう。

イリムに変態扱いされたり、見下げられたり、あまつさえ見捨てられるなんてのは絶対にイヤだ。

だからきっぱりと言わねばならない。

止めてくれ、と。


俺の真剣な表情で伝わったのか。

あれだけきゃいのきゃいの騒いでいた彼ら彼女らは静かになった。


「ごめんなさい師匠さん」

「大事な人がいるのを知らずに」


「いや、わかってくれればそれで」


そうしてラビットたちは俺を解放してくれた。

これで、イリムから見捨てられるフラグはどうにか回避することができたな。


……と、そうだ。

ザリードゥに聞きたいことがある。

急ぎ足でトカゲマンの元へ。


「なあザリードゥ、さっきの技なんだけど」

「技じゃなくて奇跡だな」

「ああ、そうか。奇跡か」

「なんとかギリギリだったけどな」


「アレ……船上のすべてを飲み込む大爆発だった。どうしてみんな無事なんだ?」

「そういう奇跡なんだよ」

「ええっと、どういう?」


「神の敵たるモノだけを滅ぼす。

 地上神罰の代行をもたらす。

 平たく言ゃあ、すべての魔物だけを破壊する奇跡だ」


おおう。

どこぞのシンプル・イズ・ベスト最強カードみたいだな。

しかしそうか。

大規模破壊でありながら、魔物だけを倒せるのか。

混戦だろうがなんだろうがお構いなく。


それはまさしく奇跡と呼ぶに相応しい。


そんなモノを発現できるザリードゥもたいがいだ。

相変わらず、俺は出会いに恵まれている。

心も力も。

ともに素晴らしい仲間たちに改めて感謝したい。



そうして感謝の正拳突き……じゃねえ。

感謝の念を目の前の爬虫類と、そして仲間すべてに送っているとくいくい、と背中を摘まれた。

振り返るとイリムであった。


「……師匠」

「どした?」


なんかモジモジくねくねしてるな。

なにかを我慢しているような。

耐え難いなにかに抗っているような。


……なるほど、そうか。


「……その、さっきのって、ほぼほぼ告白では、」

「おしっこは我慢しないほうが体にいいぞ」

「はい?」


「イリムは女の子だから、まあ恥ずかしいだろうけど。

 だからってソレは体によくないぞ」

「えっとですね、」

「船の人にトイレを聞いて……まあ最悪ひと目がないなら海にでも……」

「…………。」

「ほら、急いでやっちゃったほうがいいだろ?」


イリムの体を気遣いかけた言葉はなぜか、なにかを間違ったようだ。

プルプルと震えたイリムは、体を反転させ抉るようなボディブローを俺のお腹に見舞った。


「ぐふっ!!!」


その場に崩折れる。

師匠のバーカバーカと罵倒を浴びせながらイリムがその場を立ち去る。


そうか。

そうだよな。


お腹の痛みに耐えながら内省する。

女の子に対して、海でやってこいはデリカシーなさすぎだよな、それはダメだ。

親しき仲にも礼儀ありだ。

あとでキチンと、ひらに、ひらに。

イリムには謝っておこう。

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