王都小話 「アルマの魔法講座」
※設定回です。苦手な方は飛ばし飛ばしでお願いします。
※時間は「ぴーすけ」登場以前となります。
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いつもの酒場である。
店主は椅子ですやすやと。
カウンターに置かれた紫の瓶は甘い香気を振りまいている。
アルマは話があるという。
マジで誰も『魔法加害法』なんざ守っちゃいない。
同意ならいいのか。
「何度も注意深く観察して、はっきりしました。
あなたは魔法使いでも魔術師でもありません。
……信じられませんが、精霊術師です」
「……それは、」
何度も自分でそう言っているのだが、たいていはあまり信じてもらえない言葉だ。
「魔法使いは、周囲の魔力を
徴は血によって継がれ、子供は生まれつき魔法使い。
魔法使いに生まれれば努力せずとも一生安泰。疑問も持たず進歩もない」
「魔術師は、魔法に『なぜ』と疑問も持った者。
生まれ持ったギフトに満足せず徴や魔法の解明を行う。
ゆえに未知も多く、危険で、不幸な結果を迎えることも」
「……この世界の、魔法使いや魔術師はこのような感じですね」
歌うようにすらすらと、彼女はそう語った。
しかし突然説明されても理解が追いつかない。
「ちょっとまってくれ、もう一度説明してくれないか」
鈍いですねといった顔をしたアルマは、しかしもう一度同じ言葉を繰り返してくれる。
ふむ。
つまり「魔法使い」は天然で「魔術師」は研究者ということか。
「魔法の強さや個人の才能はどちらが優れるんだ?」
「それはもう、人それぞれですわ。
でも、……将来性があるのは魔術師でしょう」
そのあとつらつらと軽い説明を受ける。
それによると、魔法を使うには
徴は、体のどこかにあらわれるマークで、生まれつき親から子へと遺伝する。
これがあれば魔法使いであり、この徴で周囲の魔力を集め、取り込むことができる。
そうした魔力は自分のものになり、それを使って魔法を起こす。
「魔術師」はこの徴こそ魔法の要だとし、より早く、多く、魔力を集めるには徴の形や性質が関係あるのでは? と日々研究を続けている。
しかし、魔力の偏重で脳がやられる、取り込みすぎで体そのものが爆発四散など、まさに自身の命を懸けた人体実験だとか。
……大成した者もいるが、ほとんどは血みどろになりながらも生まれつき優秀な魔法使いにまるで及ばないそうだ。
「つまり、どちらにしろ魔法なり魔術なりを使うには徴と魔力が必要なわけです」
なるほど。
確かに、俺は徴なんぞもっちゃいない。
「そして、あなたが炎を操る時、純粋な魔力ではなく周囲の火精のみが動いている。ここはもう、説明が面倒なので省きます。知りたければ自分で四大元素なりなんなり学習なさい」
「投げやりだなぁ……。
四大元素で火っつーとアレか。サラマンダーとかああいうやつか」
ゲームかなにかの知識だが。
「!!」
ぐわっ、とアルマが顔を寄せてくる。
「どこで調べましたの!?」
「えっ…ちょ」
変人だが間違いなく美少女に分類されるアルマに突然顔を寄せられるとドギマギする。彼女のあまい匂いと、吐息が顔にまで感じられる。
「他には!他の四大精霊は!?」
よーし……オーケーオーケー。
ここは冷静になろう。
「えーと、水が……ウンディーネ。土がノーム。風がシルフだかシルフィードだっけ?光だの闇だのはゲームによってはいたりするが、基本4つはこんな感じだ。
これぐらいは、たぶん知ってるやつはうじゃうじゃいると思うんだけど」
ふーむと唸るアルマ。
「精霊や錬金術の知識は、秘匿されるものですが……。
もしかしてあなたの世界では錬金術や精霊術が発達しているのですか?
広く一般人にも普及していて、人々の生活に浸透していると」
……故郷はそんなおもしろマジカル世界じゃないぞ。
「そういえば言ってなかったが、元の世界には魔法なんてない。
もちろん精霊も錬金術も存在しないぞ」
「…………。」
アルマにこいつなに言ってんだという顔をされる。すげえストレートに。
むしろ可哀想なものを見る目で。
「あなたのいた世界は、火や水が存在せず、風も吹かず大地もない無色の空間なのですか?」
「そんなことないよ全部あるよ」
「文明が未開で……」
「はるかに発達してるわ!」
アルマはふーん、へぇーといった反応だ。
その後もにょもにょと「……公共性を高く見せかけた歪んだ社会構造なのでしょう。上層と下層で知識の乖離が著しく……」とかほざいてやがる。
このやろう。
次話すときは嘘知識吹き込んだろか。
賢者の石の錬成に成功するには裸じゃないと不可能で、裸の錬金術師と崇め称えられているとか。
「で、精霊術師は魔法使いとなにが違うんだ」
「……あぁ、そうですね。あなたの世界のことはまた今度」
こほん、ともったいぶって咳払い。
そしてぐっと真剣な表情で言った。
「なにが違うか詳しいことはわかりませんわ。
なにぶん、私が見たことあるのはあなたとイリムちゃんぐらいなので」
ふーん……うん?
「他の精霊術師はいないのか?」と聞いてみる。嫌な予感がする。
もしかして、またアレか。まれびとと同じでギルティ対象なのか。魔女狩りか?
忘れかけていたあの夜の光景が脳裏をよぎり、お腹がぐっと痛くなる。
邪法を使ううんたらで、火炙りにされたりしたのだろうか。
「……あ、すいません。言葉が足りなかったですわ。
彼らは古代にいた者、今は絶えた者。
大昔にはそれなりにいたようですけど、現代ではほとんどがおとぎ話の住人です」
ノット・ギルティか。
よかった。
「今でも精霊術を扱えるのは大精霊そのものか、古代竜。……あとは万を生きる
といっても俗世に関わっているのは土のアスタルテさまぐらいですが」
大精霊に竜に、古のエルフねぇ……ずいぶん御大層なやつらばかりだな。
そんなネームドと自分が同じ存在とは思えない。
「俺は炎で攻撃したりとかなにかを燃やしたりとか、そんなんしかできないんだが?」
「さあ?大昔にはそれなりにいたといったでしょう。
あなたぐらいの術師もいたのかもしれません」
「ぐらい、か」
まあ冒険者ランクは二ツ星なので、そんな雲上の方々と比べられても困る。
「まあ、といっても精霊術師は魔法使いよりおおむね有利ですよ。
魔法使いは魔力を取り込み術を行使する。
精霊術師は精霊を周囲に集めて術を行使する。
体を経由するぶん、魔法使いのほうが体への負担にかなりの差があるはずですが……どうでしょう?」
一日に撃てる術の回数が同じ中級の魔法使いと比べてずいぶん多い。
それはあの北の砦の防衛戦で、カシスや魔術師オスマンに言われたことだ。
「ですがふつうは、精霊術といった場合魔法や魔術ではとても扱いきれないような膨大な力で、とても大きな現象を引き起こすことを指します。
大地を操る『地形操作』や、季節や自然を上書きする『天候固定』、あなたの使う火の術だと、街をまるごと吹き飛ばした『核熱』なんてのもあるそうです」
街が吹き飛ぶ……無茶苦茶だな。
核兵器を個人で扱えるようなもんか。
そんな奴らがうぞうぞいたら世界が何個あっても安心できない。
「……なるほどね。
精霊術師を名乗るたび怪訝な顔されてたのはそれか」
「ええ。たとえ『大火球』を何百と連発したところで信じてもらえないでしょうね」
俺の中でも大技で、たぶん50発放ったらガス欠になる術でもか。
まあ、あんなもんホイホイ何百発も放てたらそれはそれで怖いわ。
たぶん倫理観が仕事しなくなる。
ふと……転生者であり魔法使いであり、【闇生み】に挑んで敗れた男、ジェレマイアを思い出した。
彼の丸太サイズの『火弾』……というか『
それを彼は、矢継ぎ早に休みなく、ひたすらに撃ち込み続けていた。
低く見積もっても100は超える数を。
「【紅の導師】ジェレマイアなら?」
「……残念ながら、彼ですら……認められません」
……絶句する。
俺が密かに、これだと定め尊敬し、目指すべき目標としている人ですら……。
「ということで、今後、精霊術師を名乗るか名乗らないかはお好きにしてくださいね。あなたのパーティに入る以上、ちょっと恥ずかしいのでできれば止めてほしいですけど」
といたずらっぽく笑うアルマ。
まあ、そうね。
街をまるごと吹き飛ばしたりできる魔法使いだぞ、と俺は今まで公言していたわけだ。
俺に怪訝な顔や可哀想な顔をむけていた冒険者たちやギルドの方々が思い浮かぶ。
……おうふ、これは恥ずかしい。
カードゲームで、攻撃力欄に百億とかマジックペンで上書きする小学生みたいな目で見られていたのね。
次からは自粛だな。
となればなにか別の名称がいるだろう。
【
炎の使い手……アスガルド……はなしでなにかいい感じの……そうだ。
「【
火しか使えないし、これはぴったりだろう。
呪術の火に惹かれたのだ。
アルマは「うーん」となにか味わい深い表情をしたが、「あなたがいいならそれで」と。
なんか文句あるんかいな。
「自分は炎しか扱えませんとまわりに公言して……どうです?」
「……ああ。そうね」
自分の特技や弱点をベラベラ喋りだす前座ボスみたいだな。
呪術の火は封印だ。
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