第67話 「リビング・オブ・ザ・デッド」

渡り廊下の左右の地面から、次々と骨戦士スケルトンが湧き出てくる。

まるでアリの巣を崩したかのようにワラワラと。


「師匠さんは左に大きいのを!私は右をやります!

 そのあとすぐ廊下まで退避を!!」


アルマの指示ですぐさま左の群れに『大火球』を。

右では別の爆発音と前方に炎の壁。

そして急いで廊下まで引き返す。


「みなさん、とりあえずみっつ向こうの食堂まで!

 師匠さんは途中余裕があれば『壁』をお願いします!」

「わかった!」


後ろを見ると敵影は薄い。

急いで廊下の左端から右端まで、地面に黒杖こくじょうで線を引く。

ガリガリと削れた線の上を目印に『炎の壁ファイアウォール』を発動させる。

これは群れの侵攻を抑えるとともに、老人の『呪い』からの妨害になる。


逃げつつ、後ろを確認しつつ、たまに壁を敷く。

仲間をみると、みけはザリードゥが担いで難なく全力疾走している。

頼もしい限りだ。

こんな状況でさえ「変なトコロ触ったら殺す」と彼を脅しているユーミルを見て、逆に安心してしまう。


30メートルほど走った所ですでに食堂に入ったイリムに手を引かれ、室内へ。

事前に決めた作戦で、当主が群れの形成に成功した場合幅の広い廊下でやり取りし続けるのは悪手だ、と説明されている。

その状態では常に当主を確認し続けるのは難しく、指差しの『呪いカース』でやられる可能性が高くなる。


ゆえに、この長方形の食堂に陣取り、死者の群れを削る。

俺の役目は【面制圧兵器エリアウェポン】。

近・現代戦では重機関銃ヘビーマシンガンなどが担う。


食堂奥の中央に立ち、長テーブルに沿わせるように火線を絶やすことなく疾走らせる。

これで、侵入する群れの数を減らすとともに当主も容易には顔を出せなくなる。


さっそく、地面から湧き出て館に殺到し炎の壁を越えた死者たちが食堂の入り口へと群がる。

だが、予想どおり群れの規模に対して扉は狭く、自然入り口で渋滞が起こる。

その死者の塊にむけ『火弾バレット』を叩きこみ戦いの第2幕の開始を宣言した。


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撃つ、撃つ、燃やす、装填する、また撃つ。


その合間に弾幕を抜けるモノも当然でてくるが、長テーブルを挟んで前衛に右がザリードゥ、左がイリムで対応する。

死霊術師ネクロマンサーのスケルトン大量召喚というと雑魚の群れのイメージがあるが、さすが敵の本拠地というか、積み重ねた業の深さというか。

ほとんどが初級以上、中には中級もちらほらいるようで、イリムやザリードゥといえど2、3手で倒せぬ敵もでてくる。


「前方、お願いします!!」

「……ほいさ!」


イリムの正面に3体が並んだところで、彼女が伏せ、ユーミルが鎖を疾走らせる。

蜘蛛の糸のように鎖が敵を絡め取り、そのまま強い力で締め砕く。

デカブツの場合はかつて地下で見せた巨大刃ギロチンで真上から叩き砕く。


「ホレ、もひとつ追加だ!!」

「オッケー!」


ザリードゥは余剰戦力をうまく後ろに受け流し、バランスを崩したその敵の頭蓋をカシスが的確に貫く。

ただのレイピア、ただの刺突。

ふつうはスケルトンにしろゾンビにしろ、不死者に突き攻撃は相性が悪い。


だが、彼女が振るう尖った得物には、聖なる力が宿っている。

ザリードゥの奇跡『祝福ゴッドブレス』は、アンデットに絶大な力を発揮していた。

頭蓋にただ穴をあけられただけの骨戦士は、そこからひび割れ崩壊してゆく。


俺の脇ではアルマが、指揮官コマンダー参謀ブレインとして戦況を見渡している。

彼女の足元には気絶したみけの姿。


俺が弾薬装填リロードの間など、弾幕がわずかに薄くなる瞬間に的確に小技を撃つ以外は静観に徹している。

仲間の中で最も熟達した魔法職スペルユーザーである彼女だが、そもそも錬金術師アルケミストは戦闘向きではないそうだ。


基本、道具を消費して術を行使する以上、手札切れの危険がふつうの魔法職スペルユーザーに比べはるかに高い。

大技は特に限りがあるそうだ。


アルマは通常の魔法も初歩は扱えるそうで、げんに俺の弾幕の隙は初級魔法である『魔法の矢マジックボルト』で対処している。


だが、事前に聞いた。

彼女は自前で扱える魔力は少ない。

中級の平均以下だと。

その弱点をあらかじめ準備した薬瓶ポーションで補っていると。


だからなんだというのか。弱点を把握しきちんと克服した優秀な魔術師であることに変わりはない。

頼れるこの場のリーダーだ。


「そろそろ攻め方を変えてくるかと思っていましたが……このまま押し切るつもりのようですわね」

アルマが呟く。


「それは悪手ってことか?」

「いえ。さすがにこの弾幕を張っているのがまさか【精霊術師】とは。

 ……まったくの想定外でしょうから。

 師匠さん、『火弾』の連射、あと倍は続けられますか?」


体と火精に聞く。答えは明白だった。

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