第52話 「最終防衛ライン」

カシスを前衛に、第一陣と交代する。

正面には、全力疾走でこちらへむかう魔物の群れ。


すでに装填を終えた『火矢ファイアボルト』を、続けざま正確に叩き込む。

いつまで続くかわからない魔物の群れ。


敵集団の脅威度から、『火矢ボルト』『火弾バレット』を使い分ける。

そうすることで、1本でも多くの術を行使できる。


正面の敵影は薄くなった。

余裕が若干できたところで左手、士官オスマンの担当エリアをちらと見る。


彼の戦い方は、すべてが正確無比かつ合理的だった。

前衛、砦の兵士3人。

後衛、士官にして魔術師のオスマン。


迫りくる群れや大物を、中級戦士である3人がうまく防御する。

そこに、仲間は傷つかぬが敵は最大数巻き込める範囲で、オスマンが『ファイアボール』を炸裂させる。

まるで上から地図で覗いたかのように、時間を止めてしっかり計算したかのように。


寸分の狂いもなく敵だけを排除していった。


あの空間把握能力は、とても真似できるものではない。

俺は3次元で的を捉えるのがまだまだ苦手だ。

そして、オスマンはその力がズバ抜けている。


自分の左側、彼の担当エリアは問題ない。

この砦の防衛ラインの中で、一番破り難いエリアだろう。



左の問題はなくなった。

なので目の前の問題にだけ集中できる。

敵は雑多な混成。

ゴブリン、オーク、トロール、蜘蛛。


並列想起を即座に完了させ、弾倉シリンダーに込めた12発の『火弾』を高速連射ファニングする。

危険度の高い魔物である蜘蛛、オーク、計8体をまとめてほふる。


すぐさま次の並列想起、12発の『火矢』を装填。

「カシス! トロールの相手は任せた!!」


彼女の障害になるであろう雑魚の群れを、12の火線で掃討する。

そうしてできた空間に、カシスが迷いなく飛び込む。


「ハッ!!」


彼女の繰り出した攻撃はただの一突きだった。

ただの細い、突剣の一突き。

トロールからすれば、まち針を刺された程度だろう。


腹に深々と突き刺し、抜く。

カシスは華麗にバックステップ。

トロールの腹の穴からは、赤い炎が溢れ続けている。


「GOOOOAAAAAAAAAAAAA!!」


腹を押さえ呻くトロール。


「わっ、思ってたのより凶悪ね、コレ」

「刺せばその箇所にも火が移る!」


塊のように迫るゴブリンの集団に、装填した『火矢』を一度に炸裂させる。

すぐさま同じ弾倉を交換し、また掃射。


カシスを見ると、素早い突きと体捌きでトロールの体に次々と炎を咲かせている。

ついでに彼女の邪魔になりそうな敵にむけて、『火矢』を叩き込んでおく。

あっちはもう大丈夫だな。


……そうして、何度か危ない場面はあったが、敵の猛攻はしだいに収まってきた。

もう、たまに数体が走り込んでくるぐらいだ。


最後の一匹、何も考えていないかのような顔で。

仲間が全滅しているのに。

気にせずこちらへ走りよるゴブリン。


誰かの矢が彼に命中し、戦いは終わった。


------------


イリムとザリードゥが心配だ。

と駆け出そうとしたところで異変が起こった。


ドロドロと、魔物の死骸が崩れ落ちていく。

そうして次々に黒い水たまりを形成し、そのまま地面に染み込んでいく。

あれだけあった敵の死体が、すべてそうして消えていった。


「…………なんだ、これ?」

「知らない、毎回こうなるらしいけど……今はイリムちゃんのが大事でしょ!」


すでに走り出しているカシスの背中を追う。

だが、あの死体の消え方はどこかで……。


------------


「師匠!!」

「ぐふっ!」


どーん、と腹にタックルがきた。


……いやわかるよ。あの戦いの後で、互いに無事を確かめあって。

しかし俺も少なからずあちこち怪我をしている。


飛び道具ですべての敵は仕留められない。

必ず、撃ち漏らしがある。

カシスの守りを抜けるモノもいる。


そうして何度か近接戦になり、ゴブリンはまだしもオークは強かった。

『ドライヤー』での目潰しを組み合わせてなんとか倒したが、一撃一撃が重い相手で、相手にするたびどこかで小さなミスを犯し、怪我を負った。


「イリム……怪我人にタックルは止めような」

「でも致命傷はないですよね?」


なきゃしていいのかい。


「イリムちゃんも、怪我は?」

「さっきザリードゥに治してもらいました」


そういえばザリードゥの姿が見えないな。

あたりを見渡すと、視界の端にでかいトカゲがうずくまっていた。


大丈夫か!? ……とよく見ると、怪我人に奇跡を行使している。


「そっか、神官戦士だもんな」

「でもあんまり信心深い感じでもないのよね、アイツ」

「そうなのか」

「発現できる奇跡は相当なもんで、教会の治癒師ヒーラーでもあのレベルはそうそういない。

 そもそも奇跡をおこせる人が少ないし。

 でも、ザリードゥと組んでてとても敬虔けいけんな信者には見えなかったかな。

 お祈りしてるのとかみたことない」


信仰心にあまり関係ないのか。

某ソウルゲーでは信仰振ると威力も回復も上昇していたけど。


「ところで、たびたび教会ってでてくるけど……どんな感じの組織なの?」

「雰囲気とかはキリスト教に似てるかな。

 精霊信仰も両立してるから他の宗教にもだいぶ寛容かんようだけど」


「てことは異端狩りとかはその中の過激派、つまり異常者の集まりってわけか」

「そういうこと」


のしのしとザリードゥがこちらにやってきた。


「師匠とカシス!

 無事だったかぁ、さっそく奇跡いっておこうぜ!」


がしっ、両肩を掴まれすこしビビる。

あとトカゲの顔は至近距離でみると怖い。


「『治癒ヒール』」


みるみると体の痛みがとれていく。

相変わらず、回復自体チートのような。

これの使い手がうじゃうじゃいたら、戦争や戦いの概念が変わるだろう。

うーむ、やっぱ。


ザリードゥも勧誘してみよう。

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