王都小話 「スピッリットオブファイアとは違うらしい」
※王都滞在時のお話になります。
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踊る白馬亭から王都への旅すがら、ゴブリン退治を請けたのは記憶に新しい。
そこで『
カシスから言われたのだ。
酸素は大丈夫なのか?と。
「あっ、そうか」
「えーと……マジ?バカじゃないの」
完全に盲点だった。
アルマとの総勢90匹ゴブリンのときもバカスカ撃ちまくっていたが結局大丈夫だった。
だからあまり気にしていなかった、というより気が付かなかった。
しかし改めて考えるとそうだよね。
酸欠で死んだらシャレにならない。
「洞窟って案外広かったり、風が抜けてたりするからそれかも」
「……そもそもこの世界の燃焼も酸素なのか?」
ちょっとお高めの酒場……雰囲気はBar風、にふたりで来店した。
店名は【ブラックロータス】
名前からして高額だ。
カウンター席を避け
昼間だからか、それとも高級店だからか客足もまばら。
これなら、ある程度秘密の会話もできるだろう。
もちろんカシスは未成年なので、お酒ではなくお高めのブドウジュースを注文。
こちらもお高めのワインを注文する。
すると両方ともガラス製の酒器で提供された。
大衆食堂や安宿などでは木製かスズのコップがほとんどである。
ガラスのコップは高級品なのだ。
「乾杯」
「まあ、いいけどさ」
カツン、とグラスを軽く触れ合わせる。
本当は持ち上げるだけでもいいんだけどこっちの方が冒険者的だ。
くいっと一口いくとさすがというか。
いつもの安宿のとはモノが違う。
カシスも美味そうに飲んでいるあたり、この店自体アタリだな。
「こういう、おいしいブドウは王国よりも西方諸国産が多いのよ」
「ほうほう」
「例えると王国はドイツとかポーランド、西方はフランスとかスペインね」
「へえ……少し涼しいよねこっち」
「西方は温暖で空気もカラッとしてるわ。
私は西方諸国のほうが好きかな」
「さっすがパイセン冒険者ッスね」
「……えーっと、なにかしら」
「なんでもないっす」
とひとしきり高級品を楽しんだあと、本題に入る。
そう、コレが目当てでこの店にやってきたのだ。
「じゃーまずはロウソク」
「はいはい」
カシスがテーブルに立てたロウソクに火を落とす。
そうしてカラになったグラスで蓋をする。
しばらくすると、自然に火は消えてしまった。
「おっ、この世界も酸素あるんだな」
「じゃあ次ね」
今度は伏せたグラスの中にそのまま小さめの『灯火』を想起する。
炎はフワリと漂い……いつまでも消える気配はない。
「ふーむ」
「魔法の炎ってこと?」
つまり、精霊術で生み出した炎自体に酸素は関係がないということか。
もちろんそこからなにかに燃え移れば自然の炎になるのだろうが。
「昔組んだ魔術師が、
「酸素じゃないなにかを消費してるのか?」
「だからあんま覚えてないって」
「ふむ」
まあ、洞窟内でもそこまで神経質にならなくてすむのはありがたい。
もちろん燃え盛る死体なんかはバッチリ酸素を消費してるだろうし、煙に巻かれる可能性もある。
……そういえば最初のゴブリン退治のとき、アルマが道中粉を撒いていたが、アレは罠解除ではなく酸素や煙対策の可能性もあるのかな。
こんど会ったら聞いてみよう。
カシスは気に入ったのか追加でブドウジュースを注文、ついでに軽食も頼んでいる。
まあ俺もすこし贅沢しよう。
追加のワインと硬めのチーズを注文する。
待っているあいだ、カシスが小さな箱を取り出した。
金属製で、表面の模様が細かい。
「なんだそれ?」
「ん、鍵開けの依頼ね」
とある豪商の遺品であり、なんとか解錠できないか……と。
そういうテレビ番組あったよね。
「見ての通り箱自体も豪華なつくりだから壊して開けるのはナシ、と」
「なるほど」
よくゲームなんかでどんな扉も宝箱も
ようするに、なんでもアリだ。
「ちょうどいいからここで仕上げる。灯りくれない?」
「はいよ」
『灯火』をちょうど鍵穴を照らし、それでいて作業の邪魔にならない位置に置く。
この程度の魔法行使なら街中でも許される。
だがこの店では客層に一般人や中流層が多いのか、まわりの人々がすこし驚いている。
さっきは大丈夫だったのだが、2度も3度もやっていれば気付かれるか。
……ちょっとマズイかな。まあ仕方ない。
カシスはテーブルに細々とした道具をならべ、真剣な表情で鍵穴をつついている。
うーん、仕事人って感じでカッコいいな。
出会ってすぐはJKだのなんだの子ども扱いしていたが、こうしてみると立派なプロの顔だ。
そうして注文が届くころにはカチンと解錠に成功した。
「おおお」
「ま、中身を少し見るぐらいならね」
カシスが小箱を開くと、とたんに甘い金属音でメロディーが鳴りだした。
これは……そうか。
「オルゴール?」
「みたいね、たまにはいっか。こういうのも」
音鳴る小箱を机に置き、カシスが紫色の液体が満ちたグラスをかかげる。
俺もワイングラスをもち、彼女のグラスに高さを合わせる。
「
「どういたしまして」
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