第41話 「アイテム・コレクション」

次の日。

気晴らしに3人で買い物にでかけた。

昨日物騒な事件に巻き込まれたせいで今日依頼を請ける気がしなかったのだ。


王都というだけあって、武器や道具屋の品揃えもいいのでは。

カシスに聞くとそれもそうね、ということで今俺たちは王都一といわれる商店通りにいる。


武器、防具、冒険の道具に魔法の品々。

品揃えは予想以上だった。


店の形態としてはイオ○モールや商店街だが、非常に雑然としていた。

ずらりと左右に商店が続き、場所によっては階段やテラスで2層、3層と店が積まれている。

規則性がまったくなく、店を積み木にしたような、コンテナを乱雑に積み上げたような、非常にごちゃごちゃした場所だ。


「人も店もスゴイですねー!」

「だな」


最初の街はせいぜい鍛冶屋がふたつ、道具屋みっつ。

冒険者や傭兵向きの店はそれだけだった。


まず装備を新調しようとめぼしい鍛冶屋に入る。


この、黒杖こくじょうと名付けた武器には愛着がある。

この世界に来て、村で訓練を続け、カジルさんに認められた証である。

その後も何度も俺の命を救ってくれた相棒だ。


だが、感傷や思い入れと武器の性能は残念ながら関係がない。

これより軽くて固くて強い棒状武器が手に入るなら、それと交換すべきだ。


イリムも同じ決意を固めていたらしく、自身の真っ黒な愛槍をしばらく眺めたあと

「よし!」と勇ましく槍の陳列されたコーナーへむかっていった。


俺も店内を物色し、杖や棒を片っ端から手に取る。


「…………。」


小一時間ほどして店からでる。

外にはすでにイリムが待っていた。

うーむ。


「……どうでした師匠?」

「次の店行こうか」

「そうですね」


その後3軒回った。

品揃えは田舎の街の比ではなかった。

だが、今使っている武器以上と思えるものは少なかった。


上級以上の、ケースに収められた錫杖を店員に頼んで振らせてもらった。

これは確かに、黒杖より軽く、手に持った硬さや手触りも抜群によかった。


そりゃそうだ。ミスリルコーティング製、まことの銀杖。お値段金貨5000枚。

マイアの杖としては格安だろうが、こちとらただの冒険者だ。

高すぎる。


イリムも同じだったようで、結局装備の新調はなし。

それだけ、あの獣人村でもらった装備がよかったのか。

さすがRPG中盤の村だな。


「そっか。サブの武器とかは?」とカシス。


彼女は背中からすっ、と短い短剣を引き抜く。

レイピアをそのまま短くしたような針のような短剣でスティレットというらしい。


「メインの武器が万が一壊れた時の、お守りみたいなもの。

 あと、奇策として使ったりもする」

「うーん」


そんな器用なことはできないし、ナイフはそもそも持ってるしなぁ……。

イリムも、もし槍が壊れたら後ろに下がって『石槍』を撃つか、それを握って戦うそうだ。


すげえな、鋼の兄弟かよ。

カシスも「魔法が使えるって、それだけでチートよね」と呟いていた。



次は魔法のアイテムも扱う道具屋。

魔法の道具アーティファクトは希少で、田舎の街ではほとんどお目にかからなかった。

数点のスクロールと、たくさん入る袋ぐらいだ。


だがここでは、指輪を筆頭にいろいろなアクセサリ、棚に積まれたスクロール、豪華な装丁の重そうな書物。

とにかくたくさんのアイテムが陳列されていた。


もちろんそのぶん警備は厳重で、入り口には剣呑けんのんな気配を惜しげもなく振りまく剣士がふたり、店番として直立している。

入店するだけで心臓が凍るかと思った。


「彼らは王都でも珍しい、上級の戦士よ」

「なんと!」


イリムが興奮している。

上級というと、カジルさんがそうだったか。

イリムでもまったく歯が立たない強さで、事実、カジルさんから一本取ったことは見たことがない。


「しかも、全身めいっぱいこの店のアーティファクトで武装してるからね。

 上級越えてるんじゃないかな」


つまりバケモノが2匹、店番してると。

そうすると店長もバケモノかもしれない。

あれほど、ちゃんとカネはらえっていったのに・・・しかたがない、とどろぼーした輩を殺処分してくるのだろう。

高価な品々を扱うにふさわしい防犯体制だ。


しばらく店内を見て回ったが、さすがのお値段というか。

今、俺とイリムはそれぞれ金貨80枚分の所持金がある。


そして、魔法の道具はとってもお高い代物だった。



「師匠……コレって」

とイリムが指差す指輪。


矢避けアヴォイド』の指輪、金貨1000枚。

『矢避け』の装備は、アルマから渡され、今俺の指に嵌っているものであり、イリムの腕にぐるぐると巻き付いているものである。


つまり、あの日彼女がくれたアイテムは、総額2000万円相当ということだ。

なぜ、そんな高額なアイテムをぽんと手渡したのか。


あなたたちに死なれると困る。と彼女は言っていた。

……今度アルマに会ったら、しっかりと聞いておかないと。



結局、この店でコレだと思ったのは一種類だけ。

盾のコインといわれるアイテムで、体のどこかに貼り付け合言葉を唱えると、しばらくのあいだ透明な盾として機能する古代の硬貨だ。

貼り付けた箇所を中心として、1メートルほどのバリアが生成される。


守りが弱い俺にはうってつけで、黒杖が壊れたときはもちろん、ほかにもいろいろと役に立ちそうだ。

一枚金貨20枚だが、迷わず2枚購入した。


「……師匠、残りの手持ちは?」

「金貨40ちょっとかな」

「いっきに半分ですか」

「抱え死ぬよりマシだ」

「……そうですか」


イリムはしばらく悩んだあと、高価な回復薬を2本購入した。

1本金貨20枚で、2本で40枚だ。

それは、カシスがフラメル印だとか言っていた、アルマに貰ったポーションそのものだった。



「今日のふたりの買い物を、先輩冒険者として評価すると……75点かな!」

狭い酒場のカウンターで、カシスが口上を垂れる。


酒は呑んでいないはずだが、いつもよりテンションが高いようにみえる。

またはコレが素の彼女なのか。


「アンタはチートの攻撃魔法があるし、防御重視は正解ね」

「そりゃどうも」


「イリムちゃんは戦士として攻防スキはない。だから回復にお金を注ぎ込む……モアベターよ、さすがイリムちゃん!」

「当然ですよ!」

モアベター、それは日本かハワイでしか通じないのでは……。


ともあれ、先輩冒険者であるカシスに大枚払った買い物を褒められたのは素直にうれしい。

今日の出費や考え方は間違いではなかったのだ。

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