第37話 「名前のない王都」
冒険者ギルドは街の表門近くにあり、検問で揉めたさいすぐに連絡が取れるようになっていた。俺とイリムのペラ紙冒険者証をみた門番は
これが冒険者ギルドか。
町の入口すぐの広間に、デデンと威風堂々立っている。
王都のギルドだからだろうが、大きさも装飾も立派なものだ。
「ちょっと気圧されるよね」とカシス。
「ああ」
「ここからようやく、私の伝説が!!」
カシスによると、王国で一番でかいギルドがこの王都のものらしい。
大陸最大は西の交易都市のものだとか。
王国に国名はない。
この世界唯一の王の国に、それ以外の名前はいらないだとかで、
およそ1000年前に建国以来ずっと【王国】で通しているらしい。
だが今はなんだかんだそれなりに他国とはしっかり外交し、特に西方諸国とは良好な関係だとか。
西方諸国はいくつもの諸国が散らばる地域だが、今は特に戦争などはないそうだ。
とても自由な気風で、冒険者の本場。
二ツ星以上の冒険者は国境間の移動にとくに制限もかからないのだと。
ちょっとEUににてるね。
ギルドは正面にカウンター。受付だけで3人おり、横の依頼の掲示板も大きい。
そして右手には大きな食堂が広がっており、冒険者たちが思い思いにくつろいでいる。飲み食いしているものもいるが、会議や談笑しているものがほとんどだ。
受付で手続きを申し込むと、すでに話が通っているらしく、2、3の質問のあとすぐに認定証を受け取れた。さらばペラ紙よ。
「これでついに、やっと!」
イリムは鈍く輝く銅板を掲げ、ぷるぷると震えている。
二ツ星ぐらい楽勝だ、一ツ星じゃショボイと宿の親父さんにぶーたれていたが、なんだかんだ感じ入るものがあるようだ。
「じゃあとりあえず休憩する?掲示板はそのあとでもいいでしょ」
カシスに連れられ食堂のカウンターへ。
少人数パーティのためかいつのまにかカウンター席が定番になってきている。
その途中、何人かの冒険者から鴉だのクロウだのと声がかけられる。
そのたびに面倒くさそうにカシスが相槌をうった。
「なに、オマエの
「ひっじょーにうっとおしいことにね」
黒髪ロングで服装も全体的に暗色。
シーフでありながらレイピアを巧みに操る軽戦士。
二ツ星の冒険者でありながら彼女は【鴉】と渾名で呼ばれることがあるそうだ。
「ふつうは三ツ星ぐらいからですよね、有名になるの」とイリム。
そうか、そうすると【槍のイリム】への道は険しいな。
「ええっと、私はそんなに有名じゃないし有名になりたくないんだけど……
「なるほど」
普通は、シーフなどの調査・鍵開け、交渉担当などは戦闘は苦手で、後ろに引っ込んでいることが多いそうだ。
それに比べ、カシスは前衛も問題なくこなせる。
「パーティの盗賊役としては最高じゃないか」
「……えっ、ああ、ありがと」
そうだな。
俺も最近は棒術の訓練は少なめになっているが、イリムに鍛え直してもらわんと。
防御だけでも中級になれば、できることがだいぶ変わるはずだし。
「ところで師匠、今後の方針は?」
いつのまにかエールを3つ注文したイリムが、杯を配りながら聞いてくる。
まあ今日は、依頼を請けずに休みでもいいか。
ずっとここまで旅してきたのだし。
「王都に来た最大の目的は情報収集だ」
俺たちの旅の目的は大まかに3つある。
まず、世界を見て回る。
せっかくのファンタジー世界、楽しまないのは損だ。
それに、こういうかなりざっくりした目的もひとつは欲しい。
心のゆとりというか、意識的に気軽なものを取り入れないと、どこかで倒れてしまう。
そしてイリムを【槍のイリム】として有名にして、ゆくゆくは妹のミレイちゃんと再会させる。そのためにはお金と強さが必要で、最初の目的とあわせて冒険者は最適である。
だがこの世界はなかなか曲者で、まれびとと呼ばれる異世界人は殺されてしまうような場所だ。急遽、情報収集のため世界で一番大きく、人が集まり、よって知識も集まるこの王都を旅の目的地とした。
「それには図書館がいいと思う。星付きの冒険者ならお金さえ払えば閲覧許可がでるわ」
「……盗賊ギルドみたいな場所は?」
「あるけど、嫌。リスクが高すぎる」
「そうか」
いつだかの野宿で聞いたが、ほとんどのまれびとは飛ばされてすぐか、3日とたたず殺されるそうだ。言動や服装もあるが、まずパニックを起こし大騒ぎする。
それで人が集まり……というケースがほとんどである。
俺は森林散歩からのクマ襲撃からのイリム参上でいろいろ吹っ切れ、そのあとの獣人村がおおらかな場所だったので助かった。
それと、イリムによると「外の人」は追放はされるが殺されたりはないそうだ。
まあ、何も知らずに追放されていたらどこかで野垂れ死にか狼のエサだけど。
カシスは西方諸国の小さな街に飛ばされたそうだが「ゲームやアニメの世界」の夢を見れてラッキーとうろうろ散歩をしていたら、
その日にまれびと狩りに遭遇。逃げて、逃げて。数日は息を潜めて隠れて……それから生きるため、生き残るための行動を始めた。
このころ入学初日にトラックで……というのを思い出したらしい。
飛ばされた直後は軽い記憶喪失があったのだろう。
その点は俺に少し似ている。
彼女は一度、自分の服を捨てようとしたそうだ。
だが、どうしてもできなかった。
これが、これを着ることが自分の意思表明というかプライドというか。
私はこの世界の人間じゃない、いつか元の世界に帰ってふつーの学生生活を送るのだ、という。
「
半分は諦めたというか、慣れてしまったというか。
それをみたとき、俺は旅の目的に4つ目を加えた。
途方もなさすぎてまだまだ口に出して言えるようなものじゃないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます