第35話 「戦士、盗賊、魔法使い」
宿の一室に3人。俺、後ろにカシス……対面にイリム。
カシスの手にはナイフが握られ、イリムには見えないように俺の背中にあてがわれている。
不審な言動があったら遠慮なく突き刺せ、この世界ではふつうのことだろ? と俺から提案した。芝居がかってもいるが、ここまでカシスを信用しないと、彼女からも信用されないと思うのだ。ここで2年生きてきた彼女には。
こうしてセッティングしてわかったのだが、この、昨日まで他人だった相手にナイフを突きつけられている状況というのは自分からやらせておきながら結構怖い。心臓がドキドキする。
だが、うん……よし。
「イリムさん。実は重大発表があります」
「そうですか。師匠が丁寧語のときはだいたいふざけている時ですよね」
ええっ。ひでぇな。
……どういうことよ、とカシスが呟く。
「いや、すまん。マジな話だ。真剣に聞いてほしい」
「はい」
ふう、いくぞ。
「カシスも旅に同行したいそうだ。イリムの愛くるしさにやられたらしい。あとついでに俺と同郷のまれびとさんだ」
………………。
「ええええええぇぇぇぇぇーーーっつ!?」
イリムが大口をあけて
カシスがびっくりしてか警戒してか、ナイフが5ミリほど背中に近づく。というかちょっと刺さる。地味に痛いぞこれ!
「いたたっ。イリムは、どうする?」
パクパクと口をおもしろいように開閉させていたイリムは、当然のように、
「いいですよ!」
――と。
「師匠も同じふるさとの人と出会えてよかったですね!
積もる話も盛りだくさんですね!」
当然のように、言ってのけたのだ。
はしゃぐイリムを見ながら、そうだやっぱこいつはこうなのだとつい笑ってしまう。
そして背中に当てらてたナイフがからん、と地面に落ちる音が聞こえる。
後ろのカシスの表情は見えなかったが、たぶん、笑っていたのだと思う。
アルマの方を途中見に行ったら、なんと尋問は終了し本人は王都へ発ったとのこと。
ええええ、
あと手紙といくつかのアイテムが託されており、それによると今回はどうしても外せない急用で、またすぐ王都で会いましょう、とのこと。託されたアイテムはいくつかの回復ポーションだった。金貨6枚相当。一日拘束の依頼としては妥当か。
「……えっ!!」
がっ、とカシスがポーションを掴む。
「間違いない……フラメルの印、この純度。奇跡と同等の回復をもたらす高品質のポーションよ!」
なんかしらんが、感動しておられる。
あれか、ハイポーションか。それのすごいやつ。
「おいくら万円するの?」
「西方金貨で20枚はするし、需要によってはもっとする」
1本20万のおクスリ。
「これは、飲んでいいものなのか?」
「命には代えられないでしょ」
「そうですよ、ありがたくいただきましょう!」
今回の依頼……というか事件はほとんどふたりで活躍したので、ポーションの受け取りは拒否したのだが、こういうのは共有財産だとのこと。
「それに、戦闘ばかりの依頼でシーフがあまりシーフできなかったからといって分け前減らされたら……どう?」
「なるほど」
「みんなどっかで活躍して、いつか挽回すればいいのよ」
ふたりパーティで、イリムも俺も戦闘職だったからあまり意識していなかったが、カシスのような特殊技能者がいる場合そういうバランス感覚は極めて重要だ。
「やっぱパイセンの言葉はありがたいっス」
「アンタ、今のはエラーとして許すけど、その次はないからね」
うっす。
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焚き火に当たりながら野宿中、身元を明かさなかった理由のひとつに、俺のことを同郷人だと思えなかった理由を聞く。
まれびとと呼ばれる者で、魔法が使えるというのは聞いたことがないそうだ。
まあほとんどは間もない頃に殺されているのだろうが……。
魔法が使える時点で、まれびとだと疑われる可能性はぐっと下がるのだと。
「…………」
知らなかった。
しかし、この情報。俺とカシス、それぞれが同じ秘密を持っているから対等だという駆け引きが崩れてしまうのでは。俺がカシスをまれびとだとバラしても、俺は見逃される可能性が高いということになる。
なぜわざわざこんなことを言ったのか。場合によっては自分が不利になるだけじゃないのか。顔に出ていたのだろう。カシスはふっと笑いながら、爆睡するイリムの頭をわしわしと撫でる。
「そういうのは……」
カシスは星空を眺めながら「もう疲れたから」と静かに呟いた。
王都への旅すがら、イリムとカシスはとても仲が良かった。
イリムは大人のお姉さん(ゆうて所詮JKだけどな)に甘えるようだったし、カシスは年の離れた妹を可愛がるようだった。
この世界に来て、戦いだの人死にだの、そんなのばかりだったので、そんなふたりを眺めているだけですこし心がほっこりした。
ほっこりながめていたらカシスに変質者を見るような目で見られたのはアレだが。
「師匠ーー――! やりましたよ!」
旅の途中の食料調達で、イリムがでかい兎をゲットしたときのこと。
いつものように全身で喜びを表現しながらこちらへ抱きつき&タックル(けっこう腹に来る)をかまされて、カシスに性犯罪者を見るような目で見られたのもアレだった。
変質者から犯罪者にクラスアップか。
だからその夜、見張りのカシスに叩き起こされ、尋問されるのも当然予測されうる事態というわけだ。
「イリムちゃんになにもしていないというのは、本当に本当なんでしょうね?」
と、なにか既視感のある問答をされる。
そんなに俺は信用ならんのか? ちくしょうめ。
「悲しいね。同郷の仲間にここまで疑われるとは……。そもそも僕はロリコンでもケモナーでもない、ごくごく一般的な紳士ですよ……フッ」
「変態がつくほうの紳士じゃないの?」
ええーっ、ひでぇな。
……あ、でも変態紳士とか、あとケモナーとか突っ込まないあたりわかるんかな。
こいつも元の世界ではオタク知識すこしはわかるタイプか。
くだらないネタとか通じるのはちょっとうれしいな。
「…………。」と目下カシスにはにらまれているわけだが。
「あんたは、イリムちゃんのことどう思っているの?」
うん? ずいぶんストレートな質問だな。じゃあストレートに答えるか。
「かわいい弟子だよ。
元気で、素直で。まあ、弟子っつーよりこっちが助けられてばかりだけどな」
「……そうなの?」
「そうだな」
実際、あの初めてこの世界で「まれびと狩り」を目の当たりにしたあの夜、彼女が居なかったら自分の中のなにかが折れていただろう。
そうなった後の自分は、想像したくない。
あの夜にイリム助けられた恩は絶対に忘れない。
……と、感慨にふけっていたらじっとこちらを睨んでいたカシスが「……ふーん、ま、一応信じたげる」と上から目線で納得してくれた。
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細々と創作しておりますが、作品フォローや↓のポイント評価など目に見える反応を頂けますととても励みになりますm(_ _)m
また処女作なのでいろいろ至らぬ点あるかと思います。
ご気軽にコメントなど頂けると助かります。
キャラ成分とかイチャイチャ度増したほうがよいのだろうか……
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