side Yuji-1

『ありがと、祐二くん』


 秋山さんはそう告げると、少しだけ黙り込む。


『だったらさ、友達になってよ』

「えっ?」


 ようやく再び口を開いた秋山さんから言われた言葉に僕はあ然とする、相手は有名な人で自分は一般人という境遇の違いがあるため、どのように答えればいいのかわからなかった。


『だって、今まで会ったことがある友達がしたことないことを祐二くんはやってくれたんだもん。ね、いいでしょ?』


 うーん……まさかそんなことを言われるなんて思いもしなかった。

 でも秋山さんの話を聞いてると断らない方がいいだろう、そう感じた。


「ぼ、僕でよければ……」

『わぁ、ありがとう! じゃあさ、今から言うの全部メモしてね?』


 言われて僕は勉強机の引き出しからメモとペンを取り出した、ゆっくり秋山さんの口からはアルファベットの羅列が一文字ずつ告げられる。

 最初は何の気なしに書いていたけど、次第にそれが何なのか気付く。


「秋山さん、これって……」

『そ、私のアドレスだよっ』


 弾む声で答えられ、僕は再びあ然とする。

 秋山さんによると電話だといつもすれ違いになってしまい、こうして折り返しかけ直さないといけなくなるため、メールならいつどんな時でも確認することが出来るため教えたのだと言う。


「そんな簡単に教えていいんですか?」

『いいの、気にしないで。実は仕事用とプライベート用とで携帯二つ持ってて、今教えたのはプライベート用だから』

「だったら余計に――」

『――瞳、ご飯よ~』


 電話の向こうで遠くから秋山さんとは違う声が聞こえた、言われて僕も部屋の時計に目をやると夕方六時になろうとしている時間だ。


『ごめん、れいちゃんだ。それじゃあ、今日はありがとう。これからもよろしくね』

「は、はい。よろしくお願いします」


 電話はそこで切れた。

 秋山さんって、結構大胆な人なんだな……。


「祐二、ご飯よ~」


 階下から母さんの声、呼ばれて僕は階段を降り夕食をとることにした。


 * * *


「えぇ~っ! アイスのことをもっと知りたい?」


 月曜になって僕は学校の渡り廊下で綾と話をしていた、内容は秋山さんたちがいるグループについてだ。

 今まで芸能人に興味がなかった僕に対して綾は物珍しそうな目で見る。


「な~んか怪しいわねぇ、いつもの祐二なら勉強ばっかで真面目な性格してるのに」

「いや、それはほら! この前秋山さんに会っただろ? それにミニライブへも見に行ったし、だから少しずつ興味が出てきたんだよ」


 苦笑い混じりに言った僕だが、無意識のうちにいつも自分がやってしまうクセを綾の前でやらかしていた。


「祐二ぃ~? あたしはあんたの幼なじみなんだから、その耳たぶ触るクセをどんな時にやるのかよ~く知ってるんだからねっ?」


 綾が両手を腰に当てながら疑いの眼差しで僕を見つめる、この耳たぶを触るというクセは僕が嘘をついている時に出てしまうものだ。

 観念した僕は正直に白状する。あの日綾が来る前にあったこと、ミニライブの日に電話がかかってきて秋山さんから友達になるように頼まれて引き受けたこと、全て話したが僕は後々秋山さんから怒られやしないだろうかと妙に心配になった。


「へぇ、秋山瞳が祐二に?」


 話し終えて綾はまた疑いの眼差しで見つめるが、すぐにやめた。

 僕が一度も耳たぶを触らずに説明したため、嘘ではないことをわかってくれたのだ。


「じゃあさ、今度また会う時があったらあたしもついてっていい?」

「えっ?」

「だってさぁ、祐二だけ秋山瞳と友達なんてズルいっ!」

「ズルいって……秋山さん、なんて言うかなぁ」


 僕が苦笑いしている横で綾は、まるで自分のことのように誇らしい顔を見せた。

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