side Hitomi-2
翌年私たちAYSはデビュー。週間チャートで初登場五位に入ると、そこから少しずつ人気アイドルの階段を上がっていき、デビュー二年目には初めてのライブも無事成功させた。
今では出す曲が週間チャートで初登場三位以内に顔を出せば、テレビやラジオに引っ張りだこになった。
全てが順調だと思ってた今年、三年目の夏。
私たちはテレビ番組の生放送に出るため、収録スタジオへダッシュしていた。
ふと他の番組の出演者の楽屋を通りかかった時、それは聞こえた。
「――秋山瞳ってさ、ツンとした顔ばっかでウザいよなぁ。何様のつもりなんだか」
私はとても傷ついた、そんなことないのに……。
どれくらいかってその後にやった生放送でボーッとしていて、司会からの質問に対して少しの間だけ返事が遅くなったほど。
生放送が終わってユニットのリーダーからそのことで怒られたけど、さっきのショックで聞こえていなかった。
寮に戻った私は部屋のベッドに倒れこんで思いっきり泣いた、メンバーが作った夜ご飯に呼ばれても口から出任せでいらないって言って食べなかったくらい。
そんな時私は決心する、周りは止めに入るかもしれないけど意思は強かった。
アイドルをやめよう、そう考えた時の次の日に取れたオフの朝から寮を出る。
これは家出だ、帽子に眼鏡姿っていうありきたりな変装で街を出る。
けどメンバー二人からすれば私一人のお出かけと思ったかもしれない。
街に出ると解放感があった。
まさかこんな中に秋山瞳がいるなんて夢にも思わないかも、そう思うと胸が弾んだ。
つい出来心で喫茶店に寄った時、持っていたお金がほとんどなくなったけどね。
喫茶店を出てどこへ行こうか、そう考えていた時に携帯を落としたことに気付いた。
家出している今の私に本当はいらなかったかもしれないけど、ただなくちゃ困るという思いだけで探していた。
そんな時に出会ったのが、祐二くんと綾さん。
楽しかった、自分と同い年の人と楽しいお喋り。
でも、祐二くんが私たちのことを知らなかったのには驚いたよ。
そんなこともあって、門限のこともすっかり忘れていた。
「――トミー、トミー!」
不意にティナさんの声でハッと我に返る、寮に着いたのだと言う。
車から降りた私は感謝の言葉を述べて頭を下げると、エレベーターで私たちが住んでいる階を目指す。
メンバー二人はなんて言うかな、なんて思っているうちにエレベーターが止まって扉が開く。
「瞳!」「ひぃやん!」
私がエレベーターから降りた時、メンバー二人が私の名前を呼んで駆け寄る。
「オフの門限が来ても帰ってこないし、携帯は出ないし、わたし心配したわよ……」
眼鏡姿と背中まで伸びる黒いロングヘアと私より身長が大きい子がれいちゃんこと
背は高くて、初めて会った時はモデルさんかと思った。
胸はペタンコで、言うなればまな板――れいちゃん曰く禁句で、言わないようにしている――。
「ごめんねれいちゃん、心配かけちゃって……」
「うんうん、帰ってきただけでもわたしは嬉しいわ」
家出なんて言えなかった、れいちゃんに抱き締められている私はそんな雰囲気だったから。
「ちょっ! ウチ置いてそれなん!? ウチもおんねんで!」
それを見てツッコむかわいい関西弁の声。ショートヘアの明るい茶髪で私とれいちゃんより背が低い子がまーちゃんこと
胸はれいちゃんよりも少し大きい、背は三人の中で一番小さい。
「あははは……まーちゃん、いたんだ?」
「おったわ!」
こういうボケにもすぐにツッコミを入れてくれる、そこもまーちゃんのいいところ。
これが私たちAYS。
ユニット名は三人それぞれのイニシャルからで、なんとなく語呂がいいかもって思って私が付けた。
――グゥー……。
あ……安心したら鳴っちゃった。
「私、お腹空いた……」
そう言うとれいちゃんが苦笑いしながら一緒に何か食べようって言ってくれた。
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