第35話

 ぐらり、とオーガは体勢を整える間もなく、地に背中を叩きつけるように倒れた。

 微小な埃と砂粒を僅かに巻き上がらせたものの、それだけである。

 転倒のダメージはほぼ無いだろうとエリザベスは判断し、それで良いと納得する。


 そして実際、オーガは頭を振りながら、すぐにその上半身を起き上がらせた。

 棍棒も手放しておらず、体に纏っている戦意と闘気を見る限り、まだまだ意気軒昂といった様子だ。


「ですが、失った知覚はどうにもならないでしょう」


 オーガが左手で押さえている鼻の辺りは見るも無残に焼け爛れており、元々の形状を維持できていない。

 火傷の痕から青い血液が小さな粒となり、少し膨れてはその度に弾けて小さな血流を作り、口元を通って顎から滴り落ちている。

 その鼻の状態を見る限り、嗅覚は失われたと思って良いだろう。


 ――次は、


 呟きつつ、エリザベスはゆっくりと、だが不規則に歩を進めながら、気配を徐々に薄くしていく。

 気配が限りなく薄くなった瞬間に、エリザベスの輪郭が徐々にぶれていき、やがて二人に分裂した。

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