第31話

 視線の先から姿を現したのは、巨大な魔物であった。


 それは、オーガと呼ばれる鬼の魔物である。

 人の形をしているが、あくまでそれは五体が揃っているという意味においてでしかない。


 肌の色は森に適応しているためか、野生のゴブリンと同じような緑色である。

 だが、ゴブリンとは違って背が高く、三メートルは優に越えているだろう。

 肉体の筋肉は大きく発達しており、特に上腕部が異常に盛り上がっている。

 腰周りには毛皮を巻き、手には大木を削って作ったような棍棒を持っていた。


 憤怒の表情を貼り付けたような顔が醜く歪み、圧力を伴う殺気がエリザベスに叩きつけられた。

 その場にいただろう魔物たちはオーガの放った殺気に怯え、全力で遠くに向かって逃げ去ったに違いない。


 その殺気を正面から受け止めたエリザベスは、平然としていた。

 彼女もまた、オーガと同様に殺気を放ち、敵に対して同様の圧力を加えていたのである。


 両者が放った殺気という名の圧力が拮抗して弾けた後、オーガはその歩みを止めてエリザベスを強く睨み、癇癪を起こしたように激しく咆哮した。


 しかし、それはオーガの悪手であったろう。

 エリザベスは殺気の飛ばし合いなどに興味はなく、オーガの隙を作るために殺気を放っていたのだから。

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