水は方円の器に従う

汐 ユウ

序文

 《英雄》、《救世主》、《剣聖》、《人殺し》、《殺人鬼》、全てが、私の名前。

 人間は、ある日突然、異能の力を授かった。一部の人間にのみ体現した能力は、忌み嫌われ、無差別な殺戮、無慈悲な人体実験へ繋がる。

 そして、私は能力が体現した日から機関で教育を受けることとなり、世界で最も人間を殺した《殺人鬼》になり、敵国を滅ぼした《英雄》になったのだ。


――《剣聖》よ、功績に免じて願いを一つ叶えよう。


 それなら、もう一度学生生活を送りたい。


 もう何年前のことだろう。当たり前に送っていた生活。あの頃はくすんでさえ見えていた景色が、今思い出せば眩しいくらいに輝いて見える。もう二度と手に入らない。

 過ぎた年数だけで見れば、大学生もおかしいかもしれない。


――《剣聖》よ。そなたの正体が明るみに出ることがあれば、町は滅ぶ。そのことを肝に銘じ、わずかな休息を過ごすがいい。


 私が願うのは、遠い世界に身を置くこと。近くで眺めること。

 赤く染まった世界には、嫌気がさしているんだ。


――では、一時的な名前を与える。


 シミズ=ライ


――かの港町では、シミズの姓が多いらしい。隠れ蓑にもなるであろう。健闘を祈る。

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