マリーンライオン
ノアの箱舟
第1話 新たな世界
見渡す限りの大空と青い海、曇りなき晴天が辺りを照らし合わせて穏やかな光景が広がる。
「いつ見ても変わらないな・・・ここはあの頃から同じ景色のままだ」
ふとそう考えながら、窓の景色を見ながら慎重に言葉を発する男がいた。
名前は
彼を説明するならば、18年と言う歳月を掛けて彼が熱中した自分の知的好奇心を満たす為に行った様々な出来事を知る必要があるだろう。火遊びをしたのは1度や2度ではないし、空に憧れて自作パラシュートで学校で落下傘で降りる真似事までした事がある。それらを含めて簡単に説明するのであれば。
――ただの研究者である
興味がない事にはとことんかかわろうとせず、知的好奇心がわくものにはとことん追求する為に3日寝ずに、過ごすこともあったがその頃になると大抵本人は忘れている。すぐ忘れたりしてしまう事がよくある為に余り記憶力はよくないほうである。
「あー、これから仕事かー・・・・嫌だな・・・・」
今では俺はとあるしがない研究所の一人で、知的好奇心を満たす為に調査員として海底など様々な仕事をやっている。
その為にフェリーで与那国島へ仕事の為に向かっているわけなんだが――――
――頭が重い・・・・
「上司からいきなり転勤とか言われて、いきなりだもんな。」
新天地の大陸ならまだしも、もう確認されて調べられきって対して、知的好奇心を満たす事すら出来ないのにあんなのを調べてどうなるというんだ?
そう思ってはいるが、幾ら何でも「明日からお願いね」じゃねーよ!ふざけんなよ。
「まぁタダで行けるのはラッキーちゃ、ラッキーなんだが」
曲がりなりにも興味がないわけではないが、それでも強制的にするのであれば嫌気もさすだろう。
船にはベットと荷物入れに、最低限度の娯楽としてテレビと本があるくらいで本当に最低限度しかない。
最初の内は船旅を楽しめるとだけあって柄にもなくはしゃいでしまったが、1時間もすればやる事も無くなった。こうも暇だと苦痛だ。
なので、その間は読書でもして時間を潰した方がいいだろう。
本棚にかけてあった本を1冊ほど手にとって、読んでみる――
「どれどれ・・・何だコレ?」
表紙が妙に古臭くて、所々破けたりしている。こんな昔の方があるとは凝ってるな。
本のタイトルは『人は何の為に生まれて来るのか?』というものだ。
面白そうなのでこのまま読むことにした、しかし随分古い本なのか所々の部分に虫食いのように穴が開いてしまっている。これではまともに読めないだろう。
せっかくなので少し読んでみようかと思ったが、途中から頭がボーとして来る。
「――まぁどうせ暇なんだし、早目に寝ても問題はないだろう。」
そう考えて眠りについた。
◇
ピ――ピ――――ピピ――ピ
電子音が一定間隔で音を奏で、音が鳴る限り生きていると言わんばかりにそれは鳴る。心臓が動く限りその鼓動は監視され、最新型の医療ポッドには自動で様々な状況に対応出来るようになっている。その場所は患者服になった誰かが医療ポッドに入ったまま眠りについてる。
隣には男が立って中にいる人物を見て、不安そうに見ていた。
「――容態はどうだ?」
誰かの声が聞こえてくる、初めて聞く聞いたことがない声だ。
「・・・・・・脈・・・・とも・・・です」
今度は左側から女性らしき人が小さい声で何かを言い始めた。しかし何を言っているかまでは聞こえない。
「大丈夫なんだろうか・・・・あれから3日立つとは言え未だに目覚めずとは」
「心配か?」
「ええ!当然でしょ、あんな事があった後なんですから」
「イグリット、気持ちは分かるが大声を出すな・・・ここは病室だぞ」
心配する気持ちが大きかったのか、イグリットと呼ばれた彼女は普段らしからぬ態度を見せる。イグリット・ヒル・グランデ――それが彼女のフルネームだ。
青く長い髪につぶらな瞳がチャームポイントの迷彩服を来た少女。まだあどけなさが残る顔立ちは過去の経験から軍人のそれへと変わる。
「あ、ごめんなさい」
「はぁ、気分転換にでも甲板で散歩でもしてこい」
「私も・・・いやなんでもないわ、そうですね・・・少し離れます」
躊躇う素振りを見せつつ、せわしなく頭を抱えて右往左往している姿を見る限り自分でも冷静になれない自覚があるのだろう。
イグリットは鉄製のドアを開けて、そのまま速足で去っていった。
どんどん床にブーツが当たっている音がどんどん遠ざかっていく――――
ここ4畳半の広さがあるここ104号室も一気に静かになる。
「良かったんでしょうかねぇ?」
隣にいる看護師が疑問を投げかけてくる。
名前はアネモネと呼ばれる女性で世話好きな性格をしている。
いつもマスクをしているせいか、彼女の声だけはいつも声が低く聞きずらい。
立振る舞いが子供の様に幼く、無邪気なのは正直言って羨ましいとも思える。
「さあな?アネモネこそ聞かなくて良かったのか?」
「質問を質問で返さないでよぉ―」
「悪い悪い!いつもの癖でな、そういう状況でないのは分かっているんだがな」
猫背が特徴の大男が頭に手を当てながら、椅子から立ち上がる。
「ロータスがそんなんだからイグリットも冷静さを失うんだろうねぇ」
「俺の事はどうでもいいだろ!それよりもだ!・・・・あれからどうだ?」
ロータスと呼ばれるイカツイ顔をした男は、心配そうにそれを尋ねる。
――彼は目の前で今も眠っている男を気に掛けている
――その男は艦長であり、友人であり、戦友でもある
彼は眠ったまま安静しているが、それも後数日もすれば起きるはずだ。
「奇跡的にケガも無かったから、恐らく衝撃が原因で脳震盪でもあったのでしょうね、何処にも以上は見当たらないから大丈夫だと思うわ」
「そうか・・・・目覚めたら声をかけてくれ」
ロータスはそう言うと、立ち上がって鍵を握りしめて何処かに行ってしまった。
「ふぅ・・・・」
自分にとってこの艦は無くてはならないものだ。ここ以外に居場所など無く、世界は彼女にとって薔薇の道の如く険しい。
「私はどうすれば....」
医療ポッドに入った人物を見てアネモネは不安な気持ちになってしまい、たまらず部屋を見渡す。そこにはアネモネともう一人しかいない。
常時タブレットには血圧、脈拍、健康状態を表示しておりそれを使って時折機械に指示を出すのがアネモネの仕事の1つとなっている。如何に機会が発達しても不意の出来事がある医療の現場に置いて、どれだけ発達しても機械任せの状態にするのはありえない。
「今は状態も安定しているので、マスターが心配する必要はないと思います」
声がする方に目を向ければ、まるで車椅子のような車輪に四角の形をしたロボットが見えた。
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