茨姫の凱旋

こむらさき

1 お伽噺のはじまり

「ああ、こんな場所なくなってしまえばいい」


 斧は振り下ろされずに、私の怒りに満ちた目は怯えた目の両親を捉える。

 私の身体から噴き出した怒りは、憎悪は、悲しみは、あの綺麗だったお城を全部飲み込んだ。

 母も、父も、兄も嫌いだった。私を助けてくれずに閉じ込めた城のみんなも全部全部嫌い。

 ただ一人、翡翠色の瞳をした妹のことだけは好きだった。


 ねえ、貴女だけは殺したりしないわ。

 私の醜い茨を「わたしの瞳と同じ色できれいだよ」と言ってくれた貴女だけは、安らかに眠って。

 どうか、貴女を愛してくれる王子様が来るまで、素敵な夢を見られますように。

 それまで私は眠る貴女を守りましょう。全てをこの両腕にいだいて。

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