第45話 告白
「綺麗だね」
「そうだな」
僕らは漆黒の夜空を、赤、黄、緑、などカラフルに彩る花火を見上げて、そう呟いていた。
儚く消えていったかと思うと、すぐさま違う花たちがどん、どん、どん、と咲き誇っていく。
ライトアップされているのは、何も夜空だけではない。
それを眺める紗希の表情も、いつもより輝かしくて、幻想的な雰囲気を漂わせていた。
君のほうが綺麗だよ、なんてベタなセリフは吐かない。吐く必要性を感じない。
だって、そんなこと花火を見る前からわかっていたことだから……
僕らは衣鳩先輩(許可だけくれて今はいない)のおかげで、貴賓席、いわばお金持ちしか入れない場所で、和風な椅子に二人で腰かけていた。
そこは、限られた人しか入れないので、周りに人は少なく、落ち着いて花火を楽しめる。リアルお嬢様な衣鳩先輩に感謝だな。
無言で隣の紗希の左手に指を絡めるように握ろうとすると、紗希もそれに応じてくれて、無事、恋人繋ぎが完成した。
夏や人込みのじめっとした暑さではない。心地よい温もりが指先から全身へと循環されていく。
「告白するなら今だね」
「それ、紗希が言っちゃう?」
「別に変わらないって。今日まで何度も好きって言ってくれたでしょ」
「それはそうだけど」
「だから今日はとびっきり凄い告白してよ」
「ハードル爆上がりだな」
「私は量より質派なの」
「前と言ってること逆な気がするんだが……」
「女心は秋の空って言うでしょ」
「それ微妙に意味が違わないか?僕から他の男に目移りはしないよな?」
「えー。どうかなー。凌君の告白次第かなー」
紗希は右手を口元に当て、クスクスと悪戯っぽく笑いながら、恋人繋ぎしている左手にギュッと力を込める。
緊張はしてるのだが、キラキラと煌めいた夜空を見ていると、不思議と自信がみなぎってくる。
言える。今なら。
悪いが、凄い告白なんてもの期待されても僕にはできない。
まあ、強いて言うなら。
こんなにも僕をからかうのが好きで、でも、気を遣いすぎるところがあって、意地っ張りなとこもあって、面倒くさくて、意外と泣くことが多くて…………それでいて可愛い彼女に五日間好きと言い続けた僕の胆力は凄いかな。
さらに、また性懲りもなく、何の捻りもないセリフを吐こうとしている。
思えば、僕らは最初からゴール目前だったのかもな。
ここまで、だいぶ遠回りしちゃったけど。
でも、これでようやくゴールテープを切れる。
そして、新たな道を紗希と並んで歩いていくことになる。
「僕は紗希のことが好きだ。付き合ってくれ」
すると、紗希はフフッと微笑み、「凌君っぽいね」と言って、少し間を空けてから、
「うん。よろしくねっ」
と、花火に負けない笑顔の花を咲かせた。
その笑顔が見られただけで、幸せだったが、僕にはどうしても言っておきたいことがあった。
あの時よりも近い距離で、彼女の澄んだ瞳を見つめながらこう言い放った。
「僕と付き合うことになったな。夏祭りで」
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