El Polizon 〜 密航者 〜
平中なごん
Ⅰ 密航
新天地……それは遥か海の彼方に発見された、どこまでも広がる新たな大陸である。
僕の祖国、世界最大の海軍力を誇るエルドラニア帝国はその大半を領有し、今では多くの植民都市が築かれ、帝国経済の一翼を担うまでに発展している。
新天地に行けば、新しい人生が待っている……。
僕ら旧世界の底辺に生きる者達にとって、それが合言葉のようにいつも口にする夢となっていた。
僕こと〝逃げのカミロ〟と仲間内で呼ばれるケチなコソ泥にしてもそれは変わらない。
ああ、〝逃げ〟という通り名は逃げるが得意なことももちろんあるが、そもそもは親が借金取りから逃げ回っていたことに由来する。
これでも、小さい頃の僕の家はそれなりに裕福な商家だった。羊皮紙やインクなどを扱う文具屋だ。
しかし、父親が新天地での銀山開発という嘘の投資話に手を出して破産。莫大な借金だけが残り、あとは各地を転々と夜逃げして回る旅暮らしだ。
そんな両親も貧困の内に流行り病でなくなり、それからは王都マジョリアーナの貧民街で泥棒や物乞いの真似事をして暮らしている。
そうした社会の底辺を這いずり回って生きる僕に、この旧世界で成功するチャンスなんかどこにもないのである。
だから、僕は帝国最大の港町ガウディールへ行って、そこから新天地へ渡ることにした。
とはいえ、金がないので乗せてってもらうのはもちろん、なんのツテもない乞食同然のガキでは船乗りとして雇ってもらうのも難しい……。
こうなれば、残る手段は新天地へ向かう船へ忍び込み、そのまま連れてってもらうしかない。
つまり、密航というやつだ。
ガウディールへ到着した僕はすぐにめぼしい船を見つけ、夜が更けるのを待って潜り込んだ。
帝国の護送船団や大きなガレオン船では人の目も多く警備も厳しいので、程よい大きさのキャラベル船である。
一応、泥棒稼業に従事する身、忍び込むのはお手の物だ。後はバレないよう身を潜めて過ごせば、遥か遠くまだ見ぬ楽園へ勝手に運んでくれるという算段だ。
……だが、その考えが甘かった。
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