第93話 坑道の奥

 領兵達は最初のゴーレム一体を持て余して、結局撤退を開始している。追っているゴーレムより領兵の足は速いので、もう心配は要らないだろう。

 ミレディさんのMPを温存しておきたい俺は、戦力にならない自分がと言うミレディさんの申し出を断って、坑道の先を自分のライト魔法で照らしながら進んだ。

 先頭は俺とエリーゼ。俺とエリーゼはゴーレム戦には慣れている。ニーナもそれなりにゴーレムはやっているが、ミレディさんの警護をガスランと二人で担当。なので、2列目はニーナ。3列目にミレディさんとガスラン。ギルマスも付いてきていて、最後尾。


 その時、坑道の入り口にあった人の反応が移動を開始している事に気が付く。

「ギルドマスター、入り口に居た冒険者たちがもう入って来てますよ」

「なっ、あいつら。待てと言っておいたのに」


「ゴーレムの魔石は魅力あるから、仕方ないかも」

「そうかもしれんが…」

 おそらくニーナの指摘が正しい。ゴーレムの魔石は高く売れる。

 事実、俺とエリーゼがスウェーガルニダンジョンのゴーレム階層で狩りまくった時には、かなりの大金を得た。もちろんゴーレムキングの魔石というとんでもない物もあったからだが。


「狩れれば良いんですが、廃坑道の方は苦労すると思いますよ。数が多すぎる」

 俺のその言葉にガスランが応える。

「下手すると、ゴーレムを引き連れたまま外まで逃げてしまうかも」

「モンスタートレインってやつだな」


 とにかく鉱夫達を助けるという目の前のことからと俺達は割り切って先を急いだ。

 そしてしばらくすると、10人の領兵達に近付いてくる。


「おっ、やはり冒険者か。この先は危ないぞ、ゴーレムがたくさん居て進めない」

 向こうも俺のライトで早くから気が付いていたんだろう、ゴーレムから逃げて来た領兵達の一人がそう言った。

「えっと、その先に避難している人が居るので助けに行ってるとこです」

「いや、だから進めないと言っているだろ」

 なぜか数人の領兵から怒られ始めた俺。

「うーん、急いでるんですけど…」


 最初の領兵はニーナを見ると、俺はどうでもいいとばかりに姫殿下に話をする。

「シュン、ギルドカード見せないと」

 ニーナのアドバイスに、なるほどと俺は思う。


 姫であるニーナの説明と殆ど命令に近い言葉、そして俺達のBランクのカードで納得してくれた領兵達と別れて、先を急ぐ。


 やがて最初のゴーレムに近付いてきた。

「そろそろだよ」

 俺がそう言うと全員に緊張感が走る。


 ライトの光の先に蠢いている石で作られた怪物。こうして見るとダンジョンに居たゴーレムより一回り小さいような気がする。この1匹だけは、逃げる領兵に引っ張られる形でここまで来ていた感じだ。

「なんか小さくない?」

「「小さい」」

 俺の疑問にエリーゼとニーナ二人とも同意してくれた。


 そして俺の雷撃で一瞬で終わらせる。

 エリーゼ以外の全員がその光景に唖然としていた。

「ガスラン、魔石は人間の心臓部分だから」

 俺はそう言って、崩れ落ちた大粒の砂の山のようなものを掻き分けてから魔石を拾い上げた。相変わらず綺麗な魔石だ。

「ん? 魔石も小さいな」

「うん」

「……小さいね」

 ニーナは普段と変わりない俺とエリーゼのやり取りを聞いて我を取り戻した。


 同じように再起動したミレディさんは、ゴーレムだった物の名残である小さな石をいくつか拾って見始めている。ガスランも同じように手にして見ている。


 そんな皆の様子を見て、もう大丈夫だと思った俺は言う。

「じゃあ、先に進もう。これから先は団体だし、一応、前衛抜けた時の備えだけはしておいて」

「「「了解」」」


 ズガガッ ズガッ ズガッーン

 次々にゴーレム達に雷撃を浴びせる。

 エリーゼとミレディさんもライトを浴びせる。

 確かに、ライトの光球が直接当たった所のダメージはなかなかのものだった。

 あっという間に殲滅完了。


「ゴーレムに魔法攻撃は効かないというのは間違いだったのね」

「まあ、そういう事だな」

 ニーナにそう答えた俺は、最後の魔石を回収してしまったところだ。

 ギルマスは空気だ。さっきから妙におとなしい。


 それにしても、雷撃も眩しいのにライトが幾つも出てくると眩しくて仕方ない。今度ベルディッシュさんにサングラスについて相談してみよう。



 避難していた鉱夫達の様子を確認した俺達は、さっきすれ違った領兵達へ搬送を頼むことにした。理由は、骨折していたり自力では歩けない人が多数居るからだ。互いに助け合ってここまで辿り着いた彼らは疲労の度合いも激しい。命に関わるほどではないが、誰かを抱えてということはこれ以上は酷な気がした。

 ガスランとエリーゼにそれを領兵に伝えに行ってもらう。探査もライトも使えるエリーゼが居ればあっという間に彼らに追いつけるだろう。


 鉱夫達に水や簡単な食事と栄養ドリンク代わりのポーションも大量に出して、重傷者から応急手当てを始めているミレディさんを俺も手伝う。ミレディさんが診断して俺かミレディさんがクリーンとキュア、ニーナはヒール係兼記録係。

 骨折している箇所をそのままにしてキュアを掛けると完治までの時間が掛かるので、される本人は痛いだろうがなるべく元の位置に折れた骨を戻す必要がある。

 そこで、本邦初公開の麻酔魔法。ではなくて俺が弱めのスタンを撃つ。気絶して貰ってから、折れて曲がっている手や足を整えて添木を当てて包帯を巻く。そうしてからキュアという順序。圧迫されたり陥没しているような場合は、魔力を惜しまずにキュアを掛けるしかないのだが。

 ニーナが書いている一人一人の記録はとても大事だ。どういう応急手当をしたか、今後必要と思われる処置は何かなどそういうものだ。カルテと言っていい。


 そうして、ほぼ全員への処置を終えた頃にガスランとエリーゼが戻って来る。

 今回、ダンジョンと違って酸欠が心配だった俺は、エリーゼとニーナに言って入口方向から奥に向けて風を送るようにお願いしていた。ニーナは不得意ながらも、鉱夫達が逃げ込んだこの狭い空間に少しでも新しい空気が入るように風魔法を使い続けていた。

「シュンさん、その酸素というものについての話、落ち着いたらしてくださいね」

「あ、そうなんですね。こっちではあまり知られてないことでしたか」

「綺麗な新鮮な空気というのは私達も意識しますけど、酸素というものは少し違うんですよね?」

「そうですね。落ち着いたら説明しますよ」


 その時、エリーゼが言う。

「シュン、冒険者たちが逃げて行ってるよ」

「え…? ああ、ホントだ。トレイン状態になってないか…?」

 結果的にその心配はなかった。俺もエリーゼも皆には言わなかったが、逃げ遅れた冒険者が三人ほど居て、彼らにゴーレムが群がって逃げる者をそれ以上は追わなかったからだ。


 鉱夫達への手当などはひと通りキリが付いたが、領兵に、入れる所まで負傷者が乗れる台数の馬車を持ってくることと担架を持ってくるようにお願いしているので、彼らが来るまでは俺達もここに待機ということになる。



 その後、人数が増えて戻ってきた領兵に鉱夫達のことは全てお任せできそうだったので、俺達は廃坑道へ向かう事にして対処についての話を始めた。相変わらずギルマスは付いて来ようとしているようだが、正直足手まといな感じもあるのでミレディさんにこっそり相談。

(ミレディさん、ギルマスがさっきからずっと変なんですけど)

(自分のテリトリーで好き勝手やられているという意識だと思いますよ)

(ギルマスがそんな了見が狭いものなんですか)

(レッテガルニ支部は何もできなかったと評価されるのが怖いんですよ)

(だったら少しは手伝えばいいのに、めんどくさい人ですね)

(彼は少し特別です。冒険者経験がないギルドマスターですから)


 俺達は、ミレディさんだけ別行動という選択肢は最初から無いので、一緒に行くことにしているしその為の備えも考えている。でもこのギルマスがずっと一緒に居るのは予定外だ。ただ付いてきているだけで負傷者を心配するような素振りさえ無いここまでの雰囲気で、守る義理もないように思えてきたし。

 ふと見ると、ニーナは何となく俺とミレディさんがどういう会話を交わしたのか察しているようで、ニヤニヤ笑っている。


 知ってる。それ悪い微笑って奴だよね。


 領兵の隊長にニーナは話しかける。

「貴方がこの一隊の長ですか?」

「はっ、ユリスニーナ殿下。私が隊長の責を負っております…」

 表情もその身にまとうオーラまでもが激変してニーナの姫様モードが満開なので、普段は一冒険者として扱われることを望んでいると知っている領兵達も一斉に跪いた。

「そうですか。皆さんも危険な任務ご苦労さまです。

 私達アルヴィースとミレディ女史は、ここでまだ残っている仕事がありますから、ギルドマスターには貴方達と共に外に出て行ってもらいます。彼のこともしっかり外に出るまで警護してあげてくださいね」

「はっ、了解いたしました」

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