キミの描く世界で奇跡を見たい~創成高校文芸創作部活動記録~
白石 幸知
プロローグ 幼き頃の思い出
「ねえふみやくん、まだー?」
「もうちょっとまって、いまいいところだから」
それは、僕と
「まだかなーまだかなー」
六畳ほどの子供部屋、カラフルなカーペットが敷かれ、部屋中に幼稚園から貰ったり親に買ってもらった絵本が並べられている。小さい机に二人肩を寄せてやっていることは、スケッチブックに鉛筆で文字を書くこと。といっても、ただ無意味な文字を羅列させているわけではない。
物語を描いているのだった。
絵本や童話を読むことが好きだった僕らは、既存の本を読むに飽き足らず、自分たちで自分たちが望む物語を作っちゃえ、っていう発想でオリジナルの絵本や童話を作っていた。物語は僕が、絵は当時から絵を描くのが得意だった久田野が。
「あおいちゃん、できたよ」
僕はひとつの椅子を半分こにして隣に座っている久田野にそう声を掛ける。
「ほんと⁉ みせてみせて!」
「はい」
隣の彼女にスケッチブックを渡す。そこには、既に久田野の絵が入った絵本が広がっていた。
「わぁ……!」
僕らは、先に絵を描いてその上に文章を描く、という手順で絵本を作っていた。普通は逆なのかもしれない。それとも、どっちも同じ人がやるから関係ないのかもしれないけど、絵本の創作現場なんてわからないから、なんとも言えない。
僕らがそのような手順を取ったのは簡単。
クレヨンを汚したくなかったから。
文章は鉛筆、絵はクレヨンで描いていた。クレヨンっていうやつはまっさらな画用紙に描く分には全然問題ないのだけれど、鉛筆かなんかで既に何か書かれたものの上に描くと、鉛筆の黒鉛が、クレヨンに移る。そうなると純粋な色を描けなくなってしまうから、僕らは先に絵を描いていた。
「すごい、おもしろいよ、ふみやくん!」
隣にいる久田野は、栗色の髪を揺らし、キラキラとした瞳で僕にそう言う。この瞬間が、僕にとってたまらなく嬉しいとき。
そんなふうにして、僕らは何冊も何冊も物語を作っては、お互いの家に持ち帰った。できた創作物も、半分こ、ってことで。
絵本を作ることは、幼稚園を卒園する時期には終わってしまった。けど、確かにその時期二人でやったことの数々、見てきた表情のひとつひとつが。
今の僕を形作る一因になったと思う。
創作をする理由は、誰だって別々だ。
推しの姿をもっと見たい、自分ならもっと面白い物語を描ける、やる人を楽しませるゲームを作りたい。バッドエンドになってしまったあの登場人物たちを救いたい。
ここには挙げきることができないくらい、多種多様だ。きっと、完璧に、まったく同じ理由で創作を始めた人なんて、この世に一人もいないんじゃないかなって思う。
これは、小説を描く僕と、絵を描く彼女が起こした、ひと夏の夢のような時間の記録。どこにでもあるような、ひっそりと活動する部活の物語だ。
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