5
僕はずっと眠り続けている。
何も存在しない、小さな部屋の中で。
暑くもなく、寒くもない、暗闇の中で。
でも、それはきっと誰かにとって必要なことなんだろう。
誰にとって?
それは僕にもわからない。
でも、それでも良かった。
だって僕はずっと幸せな夢を見ていたような気がするから。
ある日、僕は夢の中で不思議な青年に出会った。
その夢の中には見たこともない風景が広がっていて、とても不思議な世界だった。
夕陽の光を浴びた川が流れていて、そこに架かる橋の上を乗り物らしきものが移動する音が遠くからガタンゴトンと聞こえてきた。
窓が規則正しく並んだ建物が立ち並んでいて、かけられた衣服が風に揺れていた。
何処からか子供達が楽しげに遊ぶ声も聞こえてくる。
泥だらけになって“また明日”と笑顔で友達と手を振り合っていた。
僕はそっと瞼を下ろしてみた。
僕が見たこともないはずの景色は、どこかとても優しくて切なかった。
それと同時に、再び強い眠気がやってきて、僕の意識は新しい夢の淵へと沈みこんでいこうとする。
青年の夢の結末を、僕が知ることは一生ないのかもしれない。
だけど。
僕は夢の淵に沈んでいきながら、意識が途切れる刹那まで胸の温かさをじっと感じていた。
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