第3話

「偉いねえ、偉いよ、フィル。お前、いくつだえ」

「17です」

「17と言やあ大人よ。しっかりと手前てめえの頭で考えた上でのことでんしょうね。え、決闘たぁ穏やかじゃないよ。義王さまの御朱印ごしゅいんのない決闘は私闘よ。私闘となれば士官学校の退学は無論のこと、まかり間違って相手を殺しでもしようもんならフィル、お前さん人殺しになるよ。その覚悟はお有りかえ」

「無論です」

「どうしても我慢ならんかえ」

「もう考えるときは終わりました。私はあやつと同じ空気を吸うことにはもうもう我慢できんのです。義王さまもこのような侮辱を受けたまま泣き寝入りをするような男は要らんと仰るに決まってます」

「義王さまのお心を勝手にはかっちゃあいけねえ」

 少し語気を強めてガンドウがたしなめる。

「士官学校を無事に出て手柄を立てて、百人長、千人長と出世して義王さまのお役に立つのも立派な武人としての道よ。戦に出れば我慢の上に我慢を重ねなきゃならねえこともあるよ、一時の怒りにすべてを棒に振るような男じゃあ大働きは出来ねえのよ」

「武人の家に生まれたからには千人長、万人長、行く行くは五人長まで考えないことがあるでしょうか。もうもう考えた末のことです。ガンドウさんにすべてお話をするうえで腹に確と決めました」

 ふうん、とあごでて顔を覗き込んでくるガンドウに、フィルが重ねて問う。

「ガンドウさんは『武星団ぶせいだん-1(レスワン)』のことはご存じでしょうか」

「お、おうよ。知らねえはずがあるめえ。あれよ、偉えお人たちよ」

 フィルは士官学校の流儀にならい、迷宮の話をする時には居住まいを正し、目をつむる。

「40年前に迷宮が口を開けた時、中から出てくる怪物どもを押し返すために軍隊が向かいましたが、狭い迷宮の内部に仕掛けられた罠にかかり、毒やブレスで一網打尽に打ち取られ、果ては同士討ちと散々な有様。そこで義王さまは精鋭五名を率いる五人長を直々じきじきにお選びになり、迷宮探索の任に当たらせました。そして最深部に到達し、迷宮の活動を止めたのがその内の『武星団』と名乗るパーティーでした」

「そうねえ」

「しかし武星団は迷宮の制圧と引き換えに、五人長を失います。義王さまはその功績をたたえるために武星団の人数を補充せず、五人のままに留め置いたと言われています。さて、ガンドウさん、五人長はその時自らの命を捨てて迷宮を止めることを少しでもためらったでしょうか。私はそうは思いません。自らの命を顧みない男。そういうものに私はなりたいと思うのです」

 パッと膝を叩くとガンドウはフィルの顔を真っ直ぐに見つめる。突然のガンドウの動きに戸惑うも、フィルは視線を外さず正面からその視線を受け止める。

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