第一章
第一節
「
振り返った先にいたのは、華那の友人である
綺麗な二重瞼に長い睫毛、そして黒髪に少し茶色が混じった髪を顎のラインで切り揃えたボブカットがよく似合っている。
風花は中学時代に出来た友人の一人だ。この高校──
だが、同じ部活(美術部)に入ったので話す機会は多かった。そして、今年は同じクラスになり、最も一緒に行動している大切な友人である。
風花は愛嬌のある微笑みを口元に浮かべつつもまっすぐこちらを見詰めていた。
まだ嫌な動悸は収まっていない。そのうえ、透き通った茶色の瞳を向けられて緊張して息苦しくなってきた。
何とか落ち着こうと華那は自分の髪に手を伸ばす。それから、一つに結われた長く真っ直ぐな黒髪を軽く手で梳いてから徐に口を開いた。
「ごめん、授業で疲れてちょっとぼーっとしてた!」
言った後で、ハハ、と声を上げて笑う。
あっ、やばい……。ちょっと乾いた笑いだったかも。
誤魔化すのはあまり得意ではない。
華那の嘘に気づいたのか否か。風花の右に分けている前髪から見える片眉は下がっていた。
風花は躊躇いがちに口を開いて、
「何か悩んでるなら相談に乗るよ!」
いつになく真剣な表情でそう言った。
相談、か……。風花に全部打ち明けて相談しようかな? けど、たとえ勇気を振り絞って相談したとしても──……。
風花は「過去のトラウマを思い出してしまう? そんな下らない事で悩んでたの」と呆れるかもしれない。
それから、いつまでも過去を引きずってあの日から一歩も前に進めずに立ち止まったままの自分を否定してくるかもしれない。
もしかすると、相談している中で風花が「本当の私」を知って失望してしまうかもしれない。
このように考えた結果、華那は風花に相談しないと決めた。
華那は慎重に言葉を選びながら言う。
「風花。『相談に乗る』って言ってくれてありがとう。凄く嬉しい。……でも私は別に何も悩んでないから大丈夫だよ」
「えっ? 本当に悩んでない? 大丈夫?」
風花が心配そうな声で訊く。
華那は「うん」と小さな声で言いつつ頷いた。
嘘を吐いたから風花と目を合わせるのが気まずくて思わず目を逸らすと、教室の時計が目に入った。
時計は、12時45分を示している。
わっ! もうそんな時間!?
華那は風花に視線を戻してから慌てて質問した。
「ね、風花。さっき、私に何回くらい声かけた?」
「えっと……。多分、さっき呼んだのも合わせて四回くらい?」
風花はもう授業終わってるのにずっと席に座っている私を心配して、何度も声をかけてくれたんだ……。
ごめんね、と華那は風花に謝った。
「そんなに声かけてたのに全然気づかなくて」
風花は苦笑した。
「無反応だったから結構心配したよー! でも……、」
「でも?」
「でも、いいよ!」
風花はそう言って無邪気に笑った。華那は風花のそんな風に笑うところを好きだなと思う。
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