第156話 外道な科学者


 邪神の加護を持つ死刑囚を利用して瘴気の受け皿にしている。非人道的な実験……。ただ死刑囚達は、刑罰を逃れた先の末路。アナスタシアは、その話を聞いても涙を流している。


「正直胸糞悪い研究だな」


「ふはっ! 飛んだ甘ちゃんだなあ。女神、お前も泣いてる場合じゃないぞ? お前の世界の瘴気をコイツらは引き受けている。お前ら神は、中途半端に地球から転生者を沢山引き込んでる。この世界の歪みが原因だぞ」


 アナスタシアは身体をびくりと震わせ下を俯いている。


「君の研究さあ、アナスタシアちゃんが泣いてるんだよ。ここを破壊して君を殺すけどいいよね?」


 師匠は剣を突きつけ、怒気を放っている。


「アナスタシアちゃんが泣いてるんだよ、こんなに可愛い女神様がさあ! 女の子を泣かせる研究なんていらないよねえ……」


 師匠がカプセルの方に剣先を向け軽く振るう。カプセルが次々と破壊されていく。


「君は短気だねえ。まあこの世界でも楽しめたからいいよ? 殺せよ? 君が短気を起こした結果、この国は瘴気で溺れ、神獣も堕ちた獣に変わる」


 ニヤニヤと笑いながら師匠を煽りづける神夜。


「ほら殺せよ? どうした? やらないのか?」


「━━━もうやったよ」


 師匠が剣を鞘納めると、神夜の身体が真っ二つになる。

俺はアナスタシアに死体を見せないようにする。


「ゲス野朗め。本体はこの国にはいない……いつか必ず探し出してやる」


 本体がいない? そういや血が出てない、死体もボロクズの様に崩れている。粘土が? 土か?


━━「あーあー。全く野蛮人め、躊躇なく人を殺すとか、親はどんな教育してるんだ?」


 何処からか、神夜の声が響く。


「まあこの国での研究は終わった。瘴気の研究も済んだしな。チミ達も満足だろ? 劣化版ホムンクルスとは言え俺の分身を斬り裂いて、研究所をめちゃくちゃにしたんだからさ」


 師匠はなにも言わずに地下から上に登っていく。


「お前は一体なんなんだよ! 国を簡単に放棄して!」


 アナスタシアの耳を塞ぎながら俺は神夜に反論をする。


「なんなんだよってか? 俺は研究者だよ。今も昔もな! この世界は俺の実験場になったんだよ! 光栄だろ? 天才博士の実験場になれたんだからな! シャハハ!」


 神夜の高笑いが地下に響く。俺はその声を無視して、アナスタシアを連れて地上へ戻る。


「洋一! 葵がめちゃくちゃ怒ってたし、地下からは破壊音が聞こえてくるし」


 蘭が焦って俺に突っ込んでくる。突っ込んで!?


「あべいるっ!!」


 痛い、めちゃくちゃ痛い。蘭の渾身のタックルで吹き飛ばされた……。心配なのはわかるが痛い。


『ヨーイチ! 葵が怒ってるから虎次郎が怯えてるじゃないの! どうなってるのよ! 葵に聞いても無視するし』


 あー師匠めちゃくちゃ怒ってたからなあ。神夜は誰しもが嫌悪するマッドサイエンティストだからな。


 俺は、蘭とリュイに地下で起こった事を説明する。リュイは、かなりショックを受けていた。リュイの頭を指で優しく撫でてやる。


「心が読めないし、鑑定を誤魔化されているような変な感じはしたのよね。葵が着いていったから、怪我はないと思っていたけど……精神的にくる相手だったのね」


「ああ、胸糞悪い外道だったよ。しかも本体じゃないし……。あれ? 太一はどうした?」


 太一の姿が見えないが、何処に行ったんだ?


「急に外に出て行ったのよ、悪いハンターが出たって言いながら」


 まんまター○ゃんじゃないかい!


「まっまあ……悪いハンターが出たなら仕方ないかな?」


「私にはなんの音も聞こえなかったし、気配も感じなかったんだけどね」


「まっまあジャングルの戦士だからな。そう言うもんだと諦めてくれ」


 訳がわからないって顔をして、蘭が俺を見ている。そんな目で見るな、俺だってわからないんだから。


「そもそもジャングルじゃないじゃない。ずっと黙ってたけど、狩で生計を立てている人達と、密猟者との差をどうやって見極めるつもりなのかしら?」


「さあ? 適当にやるんじゃないかな?」


「適当って……。いない人の話をしても仕方ないか。そう言えば、国主がいなくなったけど神獣の件は?」


「あっ……まあ適当に神樹に行こうぜ。彼奴はもういないんだから」


「はあ。結局成り行き任せなのね」


 蘭がため息をついている。リュイはポケットの中で眠ってしまったみたいだ、変な話を聞かせて、疲れさせちゃったかな。


「精霊にこんな嫌な話を聞かせたくはなかったがな」


「俗な話だしね」


 アナスタシアはふさぎ込んだままだ。


「はあ、アナスタシアも元気出せよ。色々な人間がいるんだよ、地球にもこっちの世界にもな」


『……邪神の加護を受けていても私の世界の子供なの。罪を継ぐなって、魂を天に返し、命の輪に戻す。これがこの世界のルールなの……。それを邪神の加護があるからって瘴気漬けにして、無理やり命の輪から外すなんて……』


 命の輪か……。罪を継ぐなってって死刑になるような奴でもか? 魂が穢れたりしてないのか?


「死刑になっても天に返れるのか?」


『罪を継ぐなえばって、言ったでしょ。死刑でも罪を継ぐなって魂だけになれば、命の輪に戻すわよ。むしろ人族だって、虫や獣を殺すでしょ? 私達から見たら大差ないわよ』


 なるほど、神からすれば俺達人族も変わらないのか。むしろ俺達の方が、動物や虫達よりタチが悪いだろうな。


『私は彼奴が許せない、無理やり魂の輪から外すやり方なんて許せないのよ……』


 アナスタシアは歯を食いしばりながら涙を流し、震えている。


「アナスタシア、今度あったら彼奴をとっちめてやろうぜ! 今は神獣だ、神夜の奴が瘴気が溢れるとか言ってたしな」

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