第146話 魔王は何処へ?
少し痩せ細ったアナスタシアを連れ、一度魔獣の森の自宅へ戻る。本当は次に行く神殿の話やらをしたかったのだが……。
『ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯!! 飯を寄越せえー!! 私のお腹はガラ空きだー!』
アナスタシアが煩い、本当に煩い。蘭が待たせたお詫びと、虎の子のドラゴン肉を出しやがった……! アナスタシアがドラゴンの肉をドンドンと食べていく、やめて! もう食べないで! 俺の分がなくなるからああああ
「おい! アナスタシア食い過ぎだ! 俺のドラゴン肉だぞ!」
『煩い! 私、ドラゴン肉丸噛り!』
そこから先は俺とアナスタシアで、ドラゴン肉の争奪戦になった。師匠は、アナスタシアを優しい眼で見守っている。YESロリータ NOタッチの精神で見守っているらしい。
『ああ! あんた私の肉に手をつけるんじゃなあああい!』
「おい! 唾飛ばすな! 汚えだろ!」
『そんなんだから、モテなくていつまでも童貞なのよ! 葵さんを見てみなさいよ、アレがモテる男の余裕よ! あんたに足りないのは優雅さ、気品、余裕よ!』
ぐううう! 師匠と比べやがって、あーそうだよ。俺は意地汚くて、食い意地がはっている童貞さ……。
「どっ童貞の事は別に関係ないだろ!」
『やーい、40年間童貞ボーイ!』
「それを言ったら戦争だろーが!」
アナスタシアと俺が醜い口喧嘩をしていると
「はあ。洋一もアナスタシア様も落ち着いて食べれないんですか? 食事のマナーが酷過ぎです。ドラゴン肉もう出しませんよ?」
蘭にドラゴン肉を出して貰えなくなる!? アナスタシアと俺は目を合わせ頷く。
「『すっすみませんでしたあ!!』」
二人で並んで、蘭に綺麗な土下座をかます。
「一つ、埃を立てない。二つ、喋らない。三つ、箸で人を指さない。こんな事常識ですよ?」
蘭のマナー講座が始まり、俺とアナスタシアは肉を前にお預け状態になる。リュイ、師匠、エレン爺いが、容赦なくドラゴン肉を食べていく。
「あっあっ」
『あっそれは私が……』
「二人ともちゃんと聞いてるんですか?」
ドラゴン肉を目で追うと、直ぐに蘭にバレ怒られる。完璧な監視員だよ……隙がなさ過ぎるよ。
「全く大の大人が情けない。レイを見習いなさい! 皆んなに取り分けて、自分は最後に食べたり、コゲてる部分を皆んなにいかない様に、気を使ってるんですよ?」
レイ先生をチラッと見ると、確かに取り分けをしている。口をモグモグ動かしながら。ハムスターみたいで可愛いけど、アレって取り分ける時に食べてるんじゃ……
「洋一! 余計な事ばかり考えないでちゃんと話を聞きなさい! だいたい洋一は、いつもいつも━━━━」
それから蘭の説教は日が暮れるまで続いた。俺とアナスタシアは、蘭の説教中ずっと砂利の上に正座をさせられていた。
♢
その夜、俺は蘭と屋根の上で、星を見ていた。
「なあ蘭、俺にはもう戦う力がなくなったよな?」
「体力だけは残ったけどね。洋一が、戦えないのなんて今更じゃない?」
「……。まあそれを言われちまうとそうなんだが、少なくともさ神獣と戦ったり、ゾンビにされた人と戦ったり、少しは強くなってきたのかなって気がしてたんだぜ?」
俺の言葉を蘭は黙って聞いている。
「邪神の力に溺れかけていたからなのかな、力が無い今の状態が怖いんだ。ちょっと前までは、考えなかった死の恐怖が急にさ」
「死の恐怖があるのは普通の事だと思うよ?」
「普通だよな、少なくとも日本では普通だった。でもここは異世界で、俺を殺せる魔物や人がウジャウジャいる。怖いんだ……」
俺は自分の手を見つめる。自分でもわかる位に震えている。
「洋一」
蘭が俺の名を呼び、膝の上に乗ってくる。
「蘭、怖いよ……。異世界が、魔物が、敵が……。根拠のない自信も、訳の分からない力があったからなんだきっと。今の俺には、なにもないんだ……痛っ! なにすんだよ蘭!」
蘭に顎に頭突きをされた、正直めちゃくちゃ痛い。目がチカチカする。
「洋一は、初めて鷹匠として山に狩りに出た時も怖がっていたよね? 師匠から離れて一人で山に行けって言われた時だよ。覚えてる?」
覚えている。俺は香奈の事があってから、山を怖がっていた。
「私も不安だった。不安だった私を震える手で撫でながら、『大丈夫、怖くない、俺がいる。いつだって俺が護ってあげるから』って」
その言葉も情景もハッキリと覚えている。蘭が怖がっているのがわかったから、パートナーとして家族として俺がしっかりしなきゃって。護ってやらなきゃって
「その言葉を洋一に返すよ。大丈夫、私がいる。洋一をいつだって私が護ってあげる。絶対に!」
蘭の言葉が、怖くて震えていた心にストンと落ちる。
「……ッ! なんだよ、泣かせるなよ……」.
「洋一は、馬鹿だから全部自分でやろうとしてるんでしょ? 私達は家族なんだから、このピンチも二人で乗り切ろう?」
蘭を抱きしめる。蘭の羽の感触と暖かさで、涙が更に溢れてくる。
「私達は、チーム地球の生活を取り戻せなんでしょ? 洋一もいつまでも泣いてたら、堺さんに笑われるわよ?」
腕で目を擦り、強引に涙を拭く。
「なっ泣いてねーよ。そう言えば堺さん、最近あんまり出てこないけどなんかあったのかな?」
「呼びかけてみたら?」
堺さん、堺さん、こちら柊洋一、性欲を持て余す。
「反応ないんだけど、ボケにツッコミも入れてくれないし」
「どうしたんだろうね……」
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