第123話 民を斬り天に返す


 えっ? なに今の? 桜さんの目が蒼くなったっと思ったら、堺さん宛に退職願い? 四天王って魔王に退職願いを出さなきゃいけないの? そう言うシステムだっけ?


「あっあの? 桜さん? ディアナさん?」


「今は、桜でござるよ。ディアナは、もう引っ込んだみたいでござる。私の中で引きこもりとか、新し過ぎるでござるよ……」


 あっ目の色が戻ってる。いったいなんだったんだ?


『ヨーイチ、考えてもわからない事より生き残った人達をどうするかよ』


 そっそうだ、わからない事は仕方ない。今考える事は、生き残った人を集めて何処かで暮らせる様にしないと……。でも王族って生きてるのか? 


「王族って生きてるのかな」


『城に居た人はさっき助けた人達だけだよ』


「えっじゃあこの国は……」


「もう、ダメでござろうな……それに、この国の土地とか、周辺諸国が狙って来るでござろうな。領地争いの戦争が起こるでござる。せめて何処かに、皆んなが暮らせる場所があれば……」


 暮らせる場所かあ、ないよなあ。周りから害されなくて、暮らせる都合の良い場所なんて。獣人国っててもあるけど、あそこは人には辛いだろうし、妖国はだめだな。怖いし。皇国は、人差別がまだありそうだしなあ。


「問題山積み過ぎる……」


『ヨーイチ達が、暮らしてる場所に住んだら? 土壁広げて、家を増やしたら良いんじゃない?』


 あそこは、ある程度強くないと危ないんじゃないかな? さっき見た感じ、子供はいなかったけど……子供? そう言えば子供が全然いなかったな。


「ちょっと思ったんだけど、子供見なかったよな? 前に来た時は、子供が沢山いた気がするんだけど」


「子供かー魔力も気配も弱いからなあ」


 師匠は、顎に手をあて考える仕草をしている。クッ! イケメンめ!


「子供なら多分、無事ならシェルターにいるでござる」


 シェルター? そんなのがあるのか? 残った大人は最後まで戦ったって事か?


「洋一、ゾンビにされた人達は戻ってないんだからね? どうするの?」


「ゾンビ!?」


 桜さんが、蘭に詰め寄る。


「桜に悪魔を混ぜた魔人が、王都にいる戦える人達をゾンビに変えちゃったのよ」


「そっそんな……」


 膝から崩れ落ちる桜さんを、師匠が支える。師匠が、イケメン過ぎる……。


「弔いの為に、僕がやりますよ。桜さんには、特に辛い光景でしょうから」


 桜さんは師匠を振り解き、涙を流しながらその場で蹲ってしまう。


「洋一君、いいね? 僕がやる。彼奴がいない世界では、これは僕の役目だから。君達はここにいて残された人に説明するなり、転移先を決めるなりしてていいから」


 俺の返事を待たず、師匠はその場からいなくなる。


「師匠……」


「葵は、一人で背負うつもりだよ。残された人に、恨まれる覚悟までして。どうするの洋一? 葵一人に全て押し付けるの?」


 蘭の言葉が、心に深く突き刺さる。師匠は、「前に嫌われるのも恨まれるのも慣れてる」って言ってたけど、慣れている訳がない。どんなに戦場を潜ろうと、慣れるはずがない。


「桜さん、俺達はいくよ。師匠に一人で背負わせたくないからさ……俺達を恨んでくれてもいい、だけど恨みをはらす時は、俺で終わりにして欲しい。わがままだけど、俺の願いだから」


 蹲って動かない桜を残し、俺達は、師匠の元へ走り出す。


 ライルが、さっき助けた牢の前で、他の人達を護る様に立っている。


「あっヨーイチちゃん! 桜はどうなったのん?」


 俺達は、ライルに事情を説明する。


「わかったわ。じゃあ私もいくわん、王国の人間が、一人も行かない訳にはいかないからねん。その小さな身体じゃ重量オーバーよん」


 バチコーンとウインクするライル。



 ライルを加えて、レイ先生がいた城門の方を目指す。

道には焼け焦げた後が、点在している。


「師匠は速いな」


「洋一、そろそろ城門よ! 覚悟はできてるのよね?」


「これでも年長者だぜ、大丈夫、任せろ」


 震える手を握りしめ、自分に喝をいれる。


 城門に到着すると、師匠がゾンビ化した人を斬り、蒼い炎で焼いている。


 その時、師匠の顔が一瞬見えた。涙を堪えている様な、無理している様な、哀しい表情が……


「行くぞ蘭! リュイ! ライルさん!」


『ごめん、ごめんね……』


 リュイは、雷でゾンビ化した人を焼いていく。苦悶の表情を浮かべながら。ごめんなリュイ、精霊なのに……。


 レイ先生も、弓でゾンビ化した人達を撃ち抜いていく。師匠が、攻撃再開したのを見て、助からないと悟ったのだろう……。表情から、悲しみ、哀れみがありありと見てとれる。


「皆んな、助けてあげられなくて、ごめんね。これが、私の出来る手向だから……」


 ライルは、兵士の剣を祈る様に振るい斬り裂いていく。かなりキツそうだ……。


「安らかに天に逝けますように。浄炎じょうえん


 蘭もまた涙を流しながら、俺やライルが斬り裂いた、ゾンビ化した人達を浄化していく。


 間に合わなくてごめんなさい、助けられなくてごめんなさい。俺達が、貴方達の命を背負う事を許してください。


 出来るなら、俺だけを恨んで下さい。間に合わなかった俺だけを……。

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