第115話 安全装置って大事だよね?
師匠と機械の化け物の激しい戦闘が始まる。爆風と魔力が吹き荒れる。
師匠が一撃で倒せない敵を、俺は初めて見た。
「やるねえ」
師匠は、めちゃくちゃ楽しんでいる。
『ギギギギギ。流石生き残りだなあ!』
機械の化け物は、笑っている。何故笑ってイル? 人を殺したのに? あんなに沢山殺シたのに?
「だけどもう飽きたよ、終わりにしよう」
『ギギギギギなにを……?』
師匠の刀に青い力が集まる。アレならあの化け物を殺せる。
「舞え魔力よ、斬り裂け次元よ、秘儀【亜空狼】」
空間が捻れ狼の形を型取り、機械の化け物に食らいつき、引きちぎっていく。
『びゃあああ━━━━━』
機械の化け物が、絶叫する。耳障りだ……。
「さあ、吐いてもらおうか。貴様なにを知っている?」
あれ? なんで彼奴生きているんダ? なんで直ぐに殺サないんだ? なんで? どうして?
そうだ……俺がやろう。俺が手を下そう。
「蘭、レイ先生、俺なラ大丈夫だから。防御結界を外してくれ、ここジャ師匠の声が良く聞こえないから」
早く殺しにいかないと。
「えっ? あ……うん」
蘭の防御結界が解かれる。俺は、師匠達の元へ歩いていく。
『蘭! なにしてるの! レイも離しちゃだめじゃない!』
「ヨーイチの力が物凄くて、私じゃ抑えられなかった……」
レイ先生が腕を抑え、なにかを呟いているな……。だけど俺は、向こうに行かなきゃ。敵の元へ行かなきゃ。
『ヨーイチを止めなきゃ!』
リュイが叫んでいるが、もう獲物は目の前だ。
「洋一君、近寄るのはやめてくれるかな? 殺気を出してなにをする気かは知らないけど」
師匠……邪魔だよ。そいつは、壊さなきゃイケナい。
「はあ。蘭ちゃん悪いね」
師匠の刀が迫……
♢ 蘭視点
「洋一! 葵、なにを! 殺す!」
洋一は、葵に刀で
『蘭! 葵が正しいのよ! あのままじゃ機械の化け物をヨーイチは殺してたの! 憎しみのままに殺してしまったの……』
「ヨーイチであって、ヨーイチじゃなかった……」
そんな、洋一が、殺す? そんな事あるはずがない! 洋一は優しいんだ! 貴方達に洋一のなにがわかるの! 私と洋一は、ずっと二人で暮らしてたんだ! 刀で、洋一が!
「蘭ちゃん! 落ち着いて! ヨーイチは気を失ってるだけだから!」
気を失ってる? 刀で攻撃されて? あんなに速い速度でやられたのに?
『蘭! ちょっと痺れるわよ!』
━━バチン!
「えっああ、洋一は、洋一は大丈夫なの?」
洋一の側に行き、私は洋一が息をしているのを確認する。良かった、生きてる。ヒールをかけると、呼吸も落ち着き、殴られた痣も消える。
「葵……説明して」
「ああ、洋一君は、この国に来てから憎しみに染まり切ってたからね。多分気絶させなかったら、コイツを殺してたんじゃない? 僕が、情報聞き出すのに邪魔だかれ気絶させたんだよ」
淡々と事実を説明する葵、洋一の憎しみが膨れ上がったのは、きっとロザリアの件。
「邪神の因子が、彼の中にある。これ以上憎しみを増幅させたら、戻れなくなるよ。意識は、落としたままにしないとね」
葵は洋一を見ている。洋一が、突如起き上がる。まだ意識も戻っていないはずなのに
『それはだめだよ。葵君、柊君には事実を見せなければ。彼の目で見て、心で感じて、歩ませなければ』
「さっ堺さん?」
堺さんが、洋一の身体を使って喋りだす。
『やあ。蘭ちゃん、冷静な君もてんぱっていたのかな? 彼の心から、溢れてくる憎しみに呑まれて。君なら気付けたはずだよ? 彼の心と言葉が、一致していなかった事を』
私は、気付いていた? 洋一の変化に気付いていて、見て見ぬ振りをした? 私が、洋一の憎しみに呑まれていた?
『柊君は、人間として成長しなければならない。彼の身に宿る、古き邪神の力は、彼の身を蝕んでいく。邪神の力に対抗する精神が無ければ、彼は、身を奪われる。そうとしたら、古き邪神の再誕だよ。僕や、葵君が全力を出しても勝てないレベルのね』
洋一の身が邪神に奪われる、その話は創造神様も言っていた。だから、厳重に封印を重ねてくれていたはず。
『だから僕は、このタイミングで行くように指示をしたんだよ。もう少し早く教えてもよかったんだけどね。柊君の成長の為には、仕方のない犠牲だね』
洋一の為に、仕方のない犠牲。これを知ったら洋一は、きっと死を選ぶ。自分の責任だと、責め続けて命を経つ。洋一は優しいから……。自分のせいで、他人が傷付く事を容認できない。
『蘭ちゃん、君の言いたい事はわかるよ? だからここだけの話って奴だよ。まあ早く教えても、間に合ったかどうかはわからないけどね』
そう、間に合ったかどうかはわからない。
「洋一は、大丈夫なんですか?」
『ん? 今は深い眠りについてるから大丈夫だよ。柊君の中の邪神の因子も、落ち着いているしね。ただ、そうだね……安全装置として、僕が柊君の中にしばらくいよう』
堺さんは、何故か洋一に甘い。
「堺さんは、どうして洋一に……?」
『僕は僕の目的の為に、柊君を護りたいだけだからね』
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