第107話 人命救助の為には仕方ない


 あーこれは、バトルしようぜな予感がめちゃくちゃしてきた。多分脳筋タイプだよ……。15歳ってめちゃくちゃ子供じゃないか、ゲーム感覚なのか?


「なっなあ。亮だっけ? 対人戦はした事があるのか?」


「あるよ? 盗賊や山賊のNPCでしょ? あんな雑魚殺しても、素材をドロップする訳でもないし、装備もゴミだから旨味0」


 ヘラヘラと笑いながら旨味0と語る亮。やっぱり、ゲーム感覚か……。


「君、死にかけた事ある?」


 師匠の目が鋭くなる


「ないない。オイラからしたら、邪神ですらその辺の雑魚と変わらないし」


「はあ。洋一君、関わるだけ無駄だ。勝手に突撃して、勝手に死ぬパターンの典型だ」


 師匠の言葉を分かっているんだか、分かっていないんだか、肩を竦めて笑っている。


「まっなにを言われても、オイラは勇者だかんね!」


「勇者ねえ……」


師匠の剣が、亮の喉元に突きつけられる。


「えっ?」


「それ以上勇者の名を貶めるなら、お前を殺す」


 亮は、師匠の殺気で汗を流している。師匠の剣筋が、全く見えていない。


「師匠!?」


「洋一君、黙っていて」


「なっなんで! オイラが反応できないなんて! おかしい! おかしい!」


 亮は、肩を震わせながら発狂する。


「踊れマナよ、冥府の鎖を呼び起こし、縛り上げろ。愚かなる罪人に、怨嗟の記憶を脳裏に焼き付けろ、勇者が勇者たるべき、護れなかった者への贖罪の念を!」


 黒く錆びついた鎖が、亮を縛り付ける。


「あががががが!ああああ……」


 血反吐を吐き白目を剥いて気絶する亮。


「ふん。面白くない、彼奴なら、本当の勇者ならこの程度で倒れたりはしないんだよ。本当の勇者ならね」


「えっちょ……ちょっとおお! 血反吐吐いてるし、大丈夫なのこれええ!」


「蘭ちゃん、ヒールは無駄だからね? これは、僕が知る勇者の敗北の記憶を脳に焼き付けた。十分の一程度で、壊れるなんて弱過ぎるね。スキルやスペックだけで、覚悟もない、信念もない。クズだね」


 師匠が、ブチ切れている! 殺されなかっただけましかな? 

 ましだと思ってしまう俺は大分、師匠に毒されてるのかな。


『この子死んじゃうね』


 えっ? リュイの発言に固まってしまう。


「死ぬってえ? 師匠?」


「えっ? 僕のせい? あちゃー」


 あちゃーって師匠! 全然反省してないな。


『違う! 呪われてるの! 邪神の呪いに身体と魂がついていけないのよ』


「呪い? テューポーンか?」


「テューポーンの呪いねえ、そう言えばなんかしてきたなあ。弱過ぎて僕には効かなかったけど」


 なんかしてきたって……師匠規格外過ぎるだろ!


『もう! なんでもいいから、なんとかしないと! あっヨーイチ!』


「俺? 俺なんかなんもできないぞ!」


 リュイは亮のズボンを下ろした。


『さあ! 早く!』


 尻を撫でるのか? あれは因子を消すだけだぞ? いけるのか? いや男の尻だぞ?


「ウホッな展開はみたくないなあ」


 ウホッな展開なんてねーよ!


『ヨーイチ!!』


「もう! わかったよ! やるだけやってみるよ!」


 男の尻を触るのは、嫌だが仕方ない。意外に毛深いな……。俺の手が光ると、亮の尻も光りだす。


「これは、きっついな……」


『━━━━━━カイホウシロ』


「また、あの声かよ!」


 光りが、どんどん強くなり


━━バチっ!


「おわっ!」


 強い力に、弾き飛ばされて転がる。


「洋一君、大丈夫なの?」


「俺は、大丈夫だけど……亮は?」


『だめ、呪いは解けてない』


 呪いが解けてないだと、俺が我慢して尻を触ったのに!


「くそう、なんでだよ」


「うーん。一回殺してみる?」


「殺しちゃだめでしょ!」


「えーめんどくさ」


 めんどくさいから、殺すってやば過ぎる発想だよ! サイコパス過ぎるよ! やっぱ師匠怖っ!


『葵、殺さない以外はないの?』


「はっ! 殺さない以外なら、魂に邪神より強力な楔を打てればなんとかなるであります! 楔を打てるのは、神か魔王になります!」


 リュイに敬礼しながら喋ってるよ……。だが俺に強力的な神様なんていないしなあ。堺さんは『無理無理ーそこまで、関与したらばれるわあー』……らしいし。


 ファンキー爺いは『え? なんで儂が? めんどくさいじゃーん。儂のが先にのじゃ使ってたのに、のじゃロリに負けたし!』……まだのじゃについて因縁持ってるし。


 アマルナは、だめだ。金貨が、きっと足りない。最近あった時にも、色付けて渡しちゃったしなあ……。


『エロスって人は? ヨーイチに愛をくれた人なら助けてくれるんじゃない?』


 考えない様にしてたのに! エロスだけは、エロスだけは嫌過ぎる……。だが、人命救助の為に俺が犠牲になるしかないのか……。


「エロース!!! 今すぐ来い!」


『はーい!』


 エロスが、俺の背後に現れる。


「速過ぎるわ!」


『呼ばれたからね!』


 頬を赤くして、いやんいやんと喜ぶエロス。


「エロス! 邪神の呪いのを打ち消す為の楔を亮君に打ってくれ! 人命救助だ!」


『嫌だ!』


 嫌だじゃねえよ! なんでだよ!


「エロス頼むよ!」


『条件があーる! 僕とデートしてくれなきゃ嫌だ!』


 男同士で、デートなんて寒気しかしないが、仕方ない。


「わっわかったよ……」

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