第90話 今時ノークレーム、ノーリターンは規約違反だ!


 師匠に、魔眼と言う名のアイテムを目玉にぶち込まれた。蘭曰く、目の色に変化はないとの事。糞痛い思いをしたんだからさあ……オッドアイにして、厨二なヒーローにしてくれても良いんじゃないですかねえ!


「洋一、もう目開けれる?」


「おっおう、待ってね。怖いから、俺のペースでいくから……」


「十分位経つんだけど……。回復魔法もかけたから失明はしてないんだよ?」


 失明してないのは有難いが、そう言う問題じゃない。俺はコンタクトすら怖くて出来なかったんだぞ! カラーコンタクトで、カッコつけようとしたのに! カラーコンタクト高かったのに! 後で調べたら失明のリスクがあったみたいだから、やらなくて良かったけど!


「あはは洋一君。コンタクト苦手な人でしょ? 僕もコンタクト苦手でさあ、魔眼を入れる時めちゃくちゃ怖かったよ。でもそろそろ目を開けようか、えい!」


「あっ! やめて!」


 師匠は両手で俺の顔をロックし、器用に指を使い目蓋をこじ開けやがった……。目を開けるとそこには、ファンキー爺いの汚い生尻が……。


「死ね!」


 俺は、迷わずカンチョウを放った。


『あふん!』


 ファンキー爺いは、頬を朱に染めて悶えている。


「あっ! 言い忘れてた! その魔眼取り外し不可で変更が効かないからね! 中古品に付きノークレム、ノーリターンでお願いね」


 あちゃーと、頭を抑えて笑う師匠。


「なにオークションみたいに、言ってんですか師匠オオオ!」


 なにが、ノークレム、ノーリターンだよ! そう書いてある健康器具を買ったら、バネが外れて怪我したんだぞ! 腹筋が鍛えられるって書いてあったのに。腹筋が、怪我しただけだったよ。


「魔術的な不具合は無いし、年数は経ってるけど使用期限はきれてないはずだよ!」


「うう、すこぶる不安だ……。不安が山の如しだ……」


━━━━ドゴーン!!


 突如上から、爆音が響く。


「おっおわ。なんだ?」


「あはは敵が来ちゃったね」


 師匠は腹を抱えて笑い転げている。


「笑ってる場合じゃないでしょ!」


━━━ドゴーン!!


 連続して爆音が響く。


「大丈夫。この国に入れないからね。敵さん、イライラして、僕の結界に八つ当たりしてるだけだよ」


 結界便利過ぎるだろ! そのうち「私の結界は後108あるぞ」とか言いだしそうだな。


「ワッチは母上の所に行くのじゃ! 戦じゃー! 戦なのじゃー!」


 アーレイは、凄い速さで来た道を戻って行ってしまった。


「あっアーレイ! あちゃー。まあ走って行ったけど城の中だから大丈夫か?」


「洋一、私達も行こう!」


『儂は、ここに居るー』


 ファンキー爺いには、最初から期待はしてないが、堂々と言われると腹が立つな。


「さーて、じゃあ行きますか! 破ッ!」


「えっ?」


 師匠が剣を鞘に入れたまま振るうと、モーゼ宜しくな感じの道ができた。城の壁や、岩盤や、地面を抉り取って。


「へっ?」


 蘭も目を丸くしてびっくりしている。規格外ってレベルじゃない。上に住んでる人? 妖怪? は大丈夫なのか?


「よーし! 行くぞー! 洋一君のスピードに合わせて最短距離を造ってあげたよ」


 いやいやいやいやいや、えっ? ファンキー爺いも予想外だったのか、腰を抜かして口をパクパクさせている。


「葵? 転移で行けば良かったんじゃないの?」


「転移? ダメだよ。戦いに行くなら自分の脚で歩かなきゃ。さっ駆け足で行くよ!」


 ワンツーワンツー! って言いながら、楽しそうに走る師匠の後ろをついて行く。


「ワンツーワンツー! いやー走るのって楽しいね」


「あっあの、師匠の足が残像しか見えないんですが……」


「早速魔眼を使ってるね? 洋一君のペースだと僕のジョキングにもならないから、足を速く動かしてるんだよ」


 残像しか見えない時点で、魔眼がない人から見たら、足の無い幽霊にしか見えないぞ。そんな、無駄話しをしながら外に出た。


━━ドゴーン! ━━ドゴーン!


「あはは敵が怒ってるぞ! 良いね良いねもっと怒ってくれたまえ! 半魔の魔人よ」


 絶え間なく鳴り続ける爆音のせいで、師匠がなにを言っているかが、分からない。


 師匠は爆音の発生源を見据え、笑っている。


「ちょっと先に行くから! 二人は転ばない様に最速で来てね!」


 師匠が突如消える。師匠が消えて少し経つと、爆音が鳴り止む。


「確実に音の発生源に行ったな」


「そうだろうね。洋一、急ぐよ!」


「合点承知だ!」


 蘭と俺が師匠が駆けて行った場所に辿り着く。そこにいたのは、半裸で顔面をボコボコにされたオッサン。


 オッサンは、正座をさせられていた。太腿の上に岩を積まれたまま……。


「えっ? えっ? どう言う事?」


 師匠の顔を見ると、見た事がないくらいキレている。


「僕は、名前を聞いているんだよ! 僕が何者かなんて、話は後なんだよ! わかってんの? 質問を質問で返すんじゃないよ!」


 おお、あの名言を生で聞けた感動はあるけど……敵の魔族の人が、涙目だし角を掴まれて、揺さぶられている。あれじゃ師匠が悪役だよ。


「しっ師匠、あのちょっと落ち着いて……」


「ああん? ああ、洋一君聞いてくれよ。この能無し糞野朗がさ、先ずは名を名乗れって言ってるのに、言う事を聞かないんだよ。だからさ、お仕置きしたんだけど、アウアウしか言わないし」


 アウアウしか言わないって見た感じ顎が外れてるんじゃないのか? 口が閉まらなくて涙目になってるし。

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