第85話 御都合主義をぶっ壊す!


 俺は、師匠に土下座をした。だってスキルを教えて欲しいんだもの! 師匠は困惑していたが、「同士よ立ち上がれ!」と声高に叫んで、俺に巻物を渡してきた。


「こっちの世界じゃ有るかわからないけど、向こうじゃスキルスクロールはメジャーなんだ。これがあれば、文字が読める子供なら誰でもスキルを覚えられるんだ」


 おお! そんな便利なアイテムがあるとは! この世界より、随分と素敵な世界じゃないか!


「ただスキルスクロールはダンジョンでしかドロップしないから、この三つのスクロールを揃えるのには苦労したよ」


 そう言うと葵は遠い目をしていた。


「師匠! そのスキルスクロールとやらを私めに!」


「良いよ、僕はもうこのスキル覚えているからね」


 渡されたスクロールを開いてみる。先ずは透視からだ! 


━━━━━━━━━━━━━読めねえ!


 何語だよこれ! 意味がわからん!


「師匠読めない……」


「あはは。じゃあ向こうの文字から学ぼうか」


「因みに文字が読める様になるスキルや魔法は……?」


「無いよ、僕だって苦労して文字を覚えたしね」


 ガッテム! ファンタジーならさあ、パッと読めたりしないのかよ! そう言えば、この世界に来てから文字を読んだりしてないな。言語理解で会話は出来てるけど、文字を使う機会がなかったしなあ……。


「俺、覚えます! 文字を!」


「流石同士!!」


 向こうの文字が複雑過ぎて心が折れそうだが、俺は諦めない。いつかこの文字を覚えて、俺も勇者になる!


「ワッチの心が折れそうじゃ、こんな変態2人を連れて歩かなきゃいけないなんて……」


「アーレイ、洋一が馬鹿でごめんね」


 失礼な! 俺も勇者になりたいの!


『ねえ、アオイって勇者なの?』


 リュイは師匠に興味があるみたいだ。だが俺も気になる、魔王を倒したなら勇者なのか? それともジョブに勇者がある物なのかな? 俺の考えでは、誰にも達成できない偉業を成し遂げ、弱い人を助け、強い人を倒すみたいな感じの人が、周りから勇者って言われるんだが。ジョブ制度だったら切ないなー


「うーん。どうだろ? まあ魔王倒したのは事実だよ? それに魔王を倒した後【勇敢なる者】って称号は付いたけど勇者のジョブは無いし。強い奴等を倒しまくってたら、最終的にあの世界で残ったのが、魔王なだけだしね」


 おうふ。師匠は、とんでもないバトルジャンキーだった。


「人助けなんてした事あったかなあ? 強ければ王様だろうと女の子だろうと老人だろうと、平等にぶっ飛ばしてきたし」


 師匠は勇者じゃないなら、マジモンのヤバい奴だ。女子供や老人まで、ぶっ飛ばしてるならある意味、勇者だけど。


「あっあの、ワッチの国では、お願いだから暴れないで欲しいのじゃ……」


 あっあの! アーレイが下手に出るだと!?


「アーレイが、礼儀正しくお願いしてる!?痛っ!」


 素直に驚いただけなのに、頬を膨らまし、赤くしたアーレイに足を踏まれた。


「大丈夫! 興味あるのはアッチの神殿の神獣君と、邪神だけだからね!」


 満面の笑みで、フーシェンの神殿を指差している。後ろに効果音をつけるなら、ドギャーンだな。


「師匠、フーシェンはそんなに強くないぞ? 俺でも拳骨出来る位だから、虐めないであげてくれ」


「なーんだ。じゃあ後期待出来そうなのは、邪神かなあ。洋一君が出会った、強い人ランキング教えてよ」


 強い人ランキングって言われてもなあ


「えーと堺さん、創造神、腹黒天使、道化師、豪爺いかなあ」


「少っ! 君、そんなに人見知りなの!?」


 人見知り? ああ5人しか上げなかったからか?


「だって他は……勝てる気がするもの」


「そんな、み○お風に言われてもねえ……」


心底つまらんって顔してる。子供か!


「葵、多分洋一といたら邪神側は刺客を送って来ると思うよ?」


 蘭の言葉に、バトルジャンキーの師匠の目が怪しく光る。


「良いね、良いね! マーベラス! 素晴らしい! あっちの世界じゃ誰も近付いてくれなかったから、これは楽しみだなあ! 刺客は全部、僕が倒すから手出し無用ね」


 すごい速さで小指を取られ、強制的に指切りゲンマンさせられた。指切りで約束って、古風だな。


 アーレイが道の脇にある小さな祠? みたいな場所で立ち止まる。


「そろそろ、秘密の通路に入るのじゃ。絶対に暴れないと、秘密の通路を秘密にする事を約束するのじゃ! 出来なければ道は開かないのじゃ!」


 ふんすと鼻息を荒く師匠に注意するアーレイ。師匠はアーレイを無視して、祠をじっと見つめている。


「ほー! 珍しく強そうな結界だね! ちょっと斬っても良い?」


 とんでもない事をさらっと言い出した。


「だっダメなのじゃ! やめてくれなのじゃ!」


 そりゃそうだ、結界を斬って良いよって言う訳がない。


「強そうな結界なんだけどな。今度気が向いたら斬らせてね?」


「気は向かないのじゃ!」


「またまた〜」


 師匠、意外にしつこいし、空気を読まないんだな。アーレイが涙目になってる。仕方ない助け舟を出すか。


「師匠、とりあえず結界は置いといてアーレイの国に行きませんか? 神殿の瘴気次第ですが、強い奴がいるかもしれませんよ?」


 師匠の首がグルンとこっちを向いた、怖いよ! ホラー宜しくなリアクションはやめてくれ!


「ふふふふふふ! 洋一君、分かってるじゃないか! すぐ行こう、やれ行こう、それ行こう! 早く開けないとこじ開けちゃうぞ?」


 師匠が剣をカチンカチン鳴らしてる。


「やめるのじゃ! すぐ開けるのじゃ!」


 アーレイが、祠に手をかざし


「開けー! 帝王切開! 命を繋ぐのじゃ!」


 呪文考えた奴をぶん殴りたいと思う俺は、間違っていないはずだ。

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