第75話 そのふざけた神殿を吹き飛ばす!

 俺達は、ケルトさんの屋敷の裏にある街道を歩いている。神殿への矢印は街道を早く進めと言わんばかりに、主張してくる。正直センサーが発動すると、視界に赤い矢印が出るからウザくて仕方ない。


「不気味な道だなあ、変な感じだ。冷たいって言うか……なんて言うか」


 人や動物の声や気配が、一切ない。鳥すら飛んでいない、不気味な街道。


「おかしいな? 動物がいない? 鳥も飛んでない……」


 お化けとか出ないよな? 出ないよな? 出たら躊躇なく俺は漏らすぞ?


「臭いのじゃー! あの奥から嫌な気配と臭いがプンプンするのじゃ! 脱ぎ立ての爺やのパンツより臭いのじゃー!」


 のじゃーじゃねえよ! パンツの臭いと一緒にすんな。後爺やに謝れ、パンツの臭いを嗅いで「嫌だー爺や臭すぎー」とか言いながら、摘んでたんだろ!?


「お前は、爺やと爺やのパンツに謝れ」


「なんでなのじゃ!」


「お前の爺やが、傷ついているからだ」


 蘭が警戒している。いよいよ着くのか。


「ワテクシ、警戒度合いを引き上げる事を坊ちゃん達に進言するでございます!」


 フーシェンからも、警戒しろと言われる。


「リュイ、雷砲をぶっ放すかもしれないからセットしてくれ」


『ラージャン!』


 いやそれは了解の意味じゃない。ボス猿の方だ。


「(洋一、それ撃ったら神殿無くなるんじゃない?)」


 創造神の神殿だから別に消し飛ばしても良いだろ? 今じゃ瘴気の根源だし。


「(うーんどうだろ? フーシェンにも聞いた方がいいよ?)」


 俺は無言でリュイと目を合わせ、雷砲を構える。リュイも魔力をどんどん雷砲に注ぎ込んでいる。


「フーシェンあの神殿、消し飛ばしても良いか?」


 フーシェンとアーレイの二人が、俺を化け物を見るような目つきで見てくる。


「ダメでございますよ! その魔力をどうするつもりでございますか?」


「撃つよ?」


「やめるのじゃ! フーシェンの家が無くなるのじゃ! フーシェンが家なき子になるのじゃ!」


 同情をするなら金をくれってか? 俺は唾で濡らした布切れを耳に詰めた。


 さあくらえ! 俺とリュイの必殺技を!


「『ファイヤー!!』」


 俺はトリガーを引いた。ついで紫の光と爆音が辺りに響く。横をチラッと見ると、アーレイとケルトさんが気絶している。


「ミッションコンプリート!」


『イエーイ!』


 神殿も無くなり、周りの木々も無くなり、焦げ跡が目立つ更地になった。


「あわわわわわわわわわわ」


 フーシェンがあわあわしてる。御礼くらい言って欲しいもんだ、瘴気の根源を根こそぎ吹き飛ばしてあげたんだから。


 とりあえず解決して良かったぜ。


 俺とリュイが、ハイタッチしていると


『ばっかもーん!!』


 ━━━バシーン!


 後ろから頭をぶん殴られた。


「いってえ! 何すんだよ!」


 そこには、ハリセンを持ったファンキー爺いがいた。リュイはファンキー爺いにぺこりと頭を下げ、ポケットの奥に隠れた。可愛い奴め。


「おう、ファンキー爺い二つ目を解放したぞ。しかも目撃者は0、フーシェンも助かってるし文句ないだろ?」


『文句あるわー!! 儂の神殿無くなっとるじゃろがー!!』


 相変わらずうるせえな。神殿位またファンキー爺いが、建築すれば良いだろ?


「私が、造り直しますから矛を収めて頂けませんか?」


『うっうーむ。こんな感じで作れる?』


 ギリシャ神殿みたいな絵を描きはじめやがった。


「ファンキー爺い、分かってないねー。フーシェンは白狐だぞ? なら信太森葛葉稲荷神社しのだのもりくずのはいなりじんじゃ みたいにしようぜ!」


 地面に絵を描く、何度も行ってる神社だから細部まで描ける。物凄く下手だけどな!


『しかし日本の神社かあ━━━うーむ、あっちの神様にバレたら問題にならんかのう。大丈夫かのー』


「大丈夫だろ? ちょこっと変えて創造神の神殿とか書いとこうぜ。なにか言われたら、貴女をリスペクトし過ぎて作りました! 貴女の名前も銅像も最奥に安置していますって言ったら、問題ないでしょ」


『それなら良いかの! よし、材料はこれでこの石を土の真ん中に沈めてくれ』


 ファンキー爺いは、神社の材料の他に漬物石みたいな大きさの丸い石を、蘭に渡してるがあれは地鎮石じちんせきみたいなもんか?


 蘭は、直ぐに魔法で神社を組み上げていく。神社を魔法で組んでいいのかどうかは俺にはわからないが━━異世界だしまあ良いか。


 その間、フーシェンはずっと頭を下げて動かない、ファンキー爺いの事が怖いのか?


「ファンキー爺い、フーシェンに礼を言えよ。後ブラック企業特有のパワハラとかやめろ。給料を払え、そして休暇を与えろ。神獣は玩具じゃねーんだよ」


『たまーに、まともな事を言いおって━━。まあそうじゃの、フーシェンよ頭を上げてくれ』


 フーシェンが、おずおずと頭を上げる。


『生きていてくれて、神殿を護ってくれてありがとう』


 ファンキー爺いは、フーシェンの頭を優しく撫でる。


「ワッワテクシは、何も出来ず━━神殿も無くなってしまい瘴気を抑えられず、逃げる事しか出来なかった無能です━━」


 フーシェンは、涙をポロポロと流し震えている。


『良いのじゃ。神殿は柊洋一のせいじゃし、立派になっておるしの』


 笑いながら、俺と蘭を見るファンキー爺い。はいはい、空気を読みますよっと。


「蘭、アーレイやケルトさんと共に離れようか。つもる話もあるだろうしな」


「珍しく素直に空気読んだね」


「フーシェンのためだよ」


 俺は頭をボリボリとかいた。あんなに尻尾を振って嬉しそうに話すフーシェンの邪魔なんかできるかよ。

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