第70話 アバドン獣国は近代化している?
俺が、ケイナちゃんに話しかけると、シャーッて言いながら威嚇される。ケルトさんはそれを微笑ましい光景だと笑って流している。蘭とラプダとは、仲良くしてくれているから良いんだけどさ……。
「ケルトさんも、アイテムボックスのスキル持ちなんですか?」
「ん? 違う違う。僕は、気球にアイテムバックを付けてるんだ。ワンタッチ収納だよ! 僕には、魔法系のスキルは無いからさ。空間収納が有れば、色々研究が捗るんだけどね」
獣人ってファンタジーとかだと、魔法が苦手なイメージだからなあ、やっぱりこの世界でもそうなのかな?
「あのケルトさん、獣人の人達って魔法が苦手とかあるんですか?」
「獣人は魔力量が生まれつき少ない種族ではあるけど、苦手ではないよ? アバドンの国の魔女は凄いんだよー! 魔力量も、使える魔術も超一流だしね。それにケイナの火炎魔術も凄いよー! 火炎魔術特化型だけどね」
「凄いな、ケイナちゃん!」
「シャーッ!!」
褒めても威嚇されたよ……。俺のなにが、そんなに嫌なんだ。
「とりあえず、魔導車に乗って行こう。君達アバドンの通貨は、無さそうだよね?」
「角ウサギと、アスベルクの金貨ならあるけど」
「角ウサギ!? 見せてくれ! むしろ譲ってくれ! アバドン金貨10枚でどうだ!? いや安過ぎるよなあ━━だけど手持ちがあわわわわわ」
ケルトさんが、発狂しだした。角ウサギこっちにはいないのか?
「丸々一匹、あげますよ?」
「ぎええええ!!! まじ? やった! 向こう側の魔物が調べられる! 向こう側の素材はこちらにはあまり、流通しないんだよおお!」
ひえっ! テンションが怖い、目がいっちゃってる。研究者って皆んなこうなのかな……。
「はっはい。これどうぞ」
「ありがとうー!!! 本当にありがとう! さあ駅舎に着いたぞ、魔導車が来るまで時間があるから角ウサギを調べていいかな? でも血の臭いはまずいかなあ? あああああ調べたい! エクスタシー!!!」
ブリッジしだしたよ、角ウサギの角を舐めだしたよ……。すげえな、研究者。ドン引きだよ。
「ケイナちゃんには、このアポをあげよう」
必殺甘い果物で、女子を釣る作戦だ!
「向こう側の果物おおお!!」
素晴らしいスピードでケルトさんにアポを奪われてしまった。ケイナちゃんの耳が、垂れ下がってしまった。
「まっまだあるから、はい」
「━━━━アリガトウ」
めちゃくちゃぎこちなく片言で言われた。そんなに嫌か! クソおー! 高感度よ上がれえええ! ケイナちゃんが、アポを俺に隠れて食べている。耳がぴこぴこ動いてるから多分、喜んでいるんだろう。
魔導車が到着し、中に入る。内装は昔映画で観た汽車そのものだった。
「魔導車って、あんまり揺れないんだな。ラプダを乗せる場所もあるし」
「その辺は最新の注意をはらって設計されてるからね。なにせ、作った人が乗り物酔いが酷いらしく、乗り物酔いを絶対にしない様に、作り上げたらしいよ」
「乗り物酔いは、きついらしいからなあ。それに外では、結構音がしたのに、中は静かだし乗り心地も素晴らしい!」
日本にいた頃は汽車なんて乗った事なかったなあ。アバドンは、アスベルクよりも技術が発展してるんだなあ。
「凄いだろ! これも今の獣王様のおかげだよ。獣王様は、色々技術発展をして、何処の国にも負けない国を作るって意気込んでるからね。僕も、今では伸び伸び研究が出来るってものさ」
「昔は、出来なかったの?」
「昔は、色々と厳しかったんだよ。力こそ正義で、研究者なんて、武器や防具を作る便利屋扱いだったしねえ。それはそれで、面白くはあったけど……今の方が楽しいよ」
ケルトさんは、遠い目をしている。今の技術開発がいかに凄いかって事を、沢山話しをしてくれる。蘭は俺とケルトさんの話を興味深く聴いていた。
「(うーん。ケルトさんは、異世界人の転生じゃないみたいだね)」
蘭が、言う通り多分ケルトさんは異世界人じゃない。なにか、直感的な物だが違う気がする。
じゃあ獣王か? 獣王に近しい存在が異世界人なのかな? あんまり、酷い扱いをされてないといいなあ。
「ケルトさん、その技術を伝えた人って」
ケルトさんの目が、途端に鋭くなる
「それは国家機密だから、ごめんね。出来れば聞かないで欲しいな、トラブルは無い方が良いでしょ? お互いに」
「はっはい」
「国家機密な事以外は沢山話せるから、なんでも聞いてよ」
「アバドンで、ケルトさんは国に携わる研究者なの?」
「正解ー!! 今の獣王様に採用されてね!」
「うっす! 師匠は凄いのです! 師匠は天才なのです! そこら辺の技術屋さんとは格が違うのです! 頭が高いのです!」
おーケイナちゃんが初めて笑ってくれた! 可愛ええ! 言ってる事はあれだが、この子は笑顔が似合う。
「ハハー!」
とりあえず、頭を下げてみた。
「ふふん。なのです!」
何故かケイナちゃんに、頭を手で抑えられた。
「こら! ケイナ辞めなさい! 彼等には向こう側の話を沢山聞くんだから! 大事なお客様なんだぞ!」
「ごっごめんなさいなのです……」
ケイナちゃんがシュンとしてしまった。
「ケルトさん大丈夫ですよ、俺は気にしてないから」
肉球が、気持ち良かったし。
「獣人が、頭を触るのは相手を格下扱いした時だけだからね。他の獣人に触られたら、よっぽどじゃない限り触らせちゃだめだからね?」
「そっそうなんですね。了解です」
ナチュラルに格下にされたのか……。こうして俺達はケルトさんと一緒にアバドン獣国へと降り立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます