第67話 狙われる理由
次の日の朝、俺達は婆ちゃんにお礼を言った。最後にあの狼の名前を聞いて。
「婆ちゃんあの狼の名前聞いてもいい?」
「彼奴の名は、ホルケウじゃよ。彼奴は、そう名乗っていた」
「ホルケウね! 俺、ホルケウの事も婆ちゃんの事も忘れないから」
『私も、ホルケウを忘れないわ』
「ホルケウ様の事忘れません」
「━━━ありがとうね」
婆ちゃんの家を後にし、再びアバドンに向けて俺達は進む。ラプダはずっと外にいたが特に問題は起こさなかっだようだ。
「あっそう言えば、結局探索者登録してないしこれ街から出れるのか?」
「(門の外側が見えたら、転移するよ)」
なるほど、転移かそれなら良いか。俺達は出てきた門とは真逆の位置に辿り着く。だがそこにはアリアがいた。
「ウゲッ……またいるよあのオッさん」
アリアの雰囲気は剣呑で、人を殺すんじゃないかって目つきでキョロキョロしている。
「(あの人、めんどくさいなあ)」
あっ良い事思いついた! リュイ、地面から電撃をアリアに喰らわせてくれ。いいか? 気絶する程度だぞ? 今なら門の外は見えてる訳だし、いつでも転移できるしな
『(了解したわよ! いくわよー
アリアの足元から、雷の蔓が伸び絡め取り、バチチチと音を立て紫色の華を咲かす。
「おー! めっちゃ綺麗だな。兵士がアリアを取り囲んでいる隙に、転移しちゃおうぜ」
「(あの威力なら死にはしないだろうし、大丈夫かな?)」
俺達は転移で街を出て、ラプダに乗り次の街を目指す。
「しかし、アリアはなんなんだろうな」
『あのおじさんキラーイ』
リュイが人を嫌うのは珍しいな、襲ってきた精霊教の奴等ですら嫌わなかったのに。
「なんでだ?」
『さっきのおじさんは、ヨーイチを殺そうって感情で頭がいっぱいだったから』
俺を殺すかあ……ああカンチョウしたからか? アリアは痔だったのかな? 痔だとしても殺すまでいくのか? うーん依頼主から殺害依頼されたとか? でも俺を殺してなんのメリットが?
「なあ蘭、念話石でロザリアさんに連絡して、アリアがいるか確認出来るかな?」
「うーん? 出来るんじゃないかな?」
「一応アリアが、俺達を狙ってるって伝えといた方がいいと思うんだよ」
ロザリアは、蘭やリュイを大切に思ってくれている。だから、2人に被害が及ぶとなれば協力してくれる筈だ。利用するみたいになるが、2人の安全の為だ。
「ロザリアが、調べてみるって。なるべくアリアには近づかない事とと、襲われたら始末しても構わないって」
「しっ……始末はしねえよ! ロザリアさん怖いな」
「洋一、前にも言ったけど、この世界は平和な日本とは違うんだよ? 弱ければ虐げられるか死ぬ、強ければ生き残りそれなりの待遇が受けられる。そんな世界だよ」
「うっリアル弱肉強食かあーー。志々雄○ならこんな世界でも生き生き出来るんだろうなあ。俺にはハードルが高過ぎる。壬生の狼みたいに悪即斬って割り切れないしなあ……。なるべく逃げ専門でいこう」
魔物を殺すのだって、やっと慣れたのに、人殺しなんて出来るわけがない。
『ヨーイチ、盗賊とか出たらどうするの? 盗賊を生かしておけば、新しい被害者が出るよ?』
「盗賊かあ、蘭やリュイに人殺しは絶対にさせたくないし、かと言って俺に人を殺せるからって、言われたら殺せないしなあ」
非常に難しい問題だ、人を殺せるかと言われてYESと答え、実際に実行できる人間は現代の日本には少ないだろう。
本来なら、生き物を殺す事すら、躊躇われる行為だ。
光一も、かつて盗賊と直面して捕縛を選んだって言ってたしな。
「うーん殺さないって選択肢が、難しい世界なのはわかるんだけどなあ。俺はなるべく人は殺したく無い。無力化で済むならそれが一番だし、後は国や街や村この世界に住む人達の判断に任すよ」
これは逃げだが、どうしても俺には盗賊だからって殺す事はできそうにない。踏み越えちゃいけないラインだと思うし。
『ヨーイチは、そのままで良いかもね』
「そうね、洋一はそのままでいなさい」
むっ何故かお母さんの様な優しい眼差しで2人に見つめられている! シリアスな雰囲気だったのに!
「しっかし、俺を殺す理由……理由かあ、あっ!!」
俺は気付いてしまった。命を狙われる理由がある事に……。
「アナスタシアがさあ、前に神託だしたよな?」
『「あっ」』
「俺、魔王にされたままだ! アナスタシアが誤報だって流してないしいいいいい!」
ヤバイ、この神託がどの程度広まってるかは知らないけど、これから先色々な奴等に命を狙われまくる可能性が大だ。
「ヤバイヤバイヤバイ俺が魔王で、魔王が俺であわわわわわわわわ!」
『まっ! 紗香が、きっと新しい神託出してくれるわよ!』
「はっ! そうだ! 紗香さん神託お願いします! 俺はイケメン勇者で、彼女募集中のナイスガイだって! お願いしまーす!!」
俺は、力の限り祈ってみたが、紗香さんからの返答はなかった。仲間達の哀れみの視線を手に入れたのと同時に、俺のハートは、ボロボロになっていた。
『全く、とりあえず私と蘭が居れば襲撃者には対応出来るから、ヨーイチはドロブネに乗ったつもりでいなさい!』
ありがとう、ありがとうリュイだけどな……泥船じゃ直ぐに沈没しちゃうんだよ……。誰だよ、ことわざ教えた奴、間違って覚えてるじゃんかよ。良い台詞だったのに。
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