第0話


 俺は相棒のクマタカのらんと共に農家の依頼できた、害鳥駆除の依頼を済ませ、蘭と共に細い街道を車で走る。


 一車線交互通行の細い道を走っていると前からトラックがやって来る。道を譲るスペースも無いので、洋一は一旦止まろうとしブレーキを踏む。


 だが何故かこちらに向けてトラックが猛スピードで迫ってくる。


 クラクションを鳴らし、洋一は慌ててバックをするが間に合わない。


ぐしゃり


 それが洋一が最後に聞いた音だった。




「うわあああああ!! 」


 俺は情けない悲鳴をあげて尻餅を着いた。


「あっあれトラックは⁉︎ 蘭は? 」


 混乱している俺を蘭の嘴が突く。


「ピッ! 」


「蘭お前、無事だったか、良かった! 」


 蘭を左手に乗せ辺りを見回すが何もない、異質で無機質な空間。蘭を撫で心を落ち着かす。蘭のモフモフ感に癒される。


「蘭ここはどこなんだろうな? 俺達一体どうなったんだ? 」


 バーンとでかい音と派手な光が辺りを包む。目をあけると金髪の痴女が目の前に現れた。


「私が女神アルテミス……ってちょっとあんた痴女って何よ! 美人とかグラマーとかなら分かるけど」


 どう見たって痴女だろう、薄い白い布を身に纏っただけだの裸の外人、うん痴女だ。逆に痴女じゃなかったら頭のヤバイ人だ。


「誰の頭がヤバイって! ちょっとあんた! 私神よ、女神! わかってんの!?」


「あれ、俺今口に出してたっけ?」


「あんたの心何て、丸見えなのよ!」


 痴女の上に覗き何てヤバイ、本格的にヤバイ人だ。


「むっかつくわねえ、あんた」


 キレやすい女だな。


「それよりそこの蘭ちゃんこっちに来なさい」


 さっきまでキレてたのに、急に猫なで声を出しやがった。


「蘭は知らない人のとこには、って蘭!?」


 蘭は俺を無視して痴女の肩にとまった、痴女に痛覚は無いのか? まっまさか!? 奴はドMか!? おいおいおい、痴女、覗きで終わりにしてくれよ、ドMまでついたら本物の化け物だぞ


「何が化け物よ!! 私は女神だからこの可愛い子が乗っても痛くないのよ。あー可愛い、主人はあんなにキモくて臭くてダラシないクソ人間だなんて本当に勿体ないわ」


 クソ人間ってお前は性癖モンスターじゃねえか。蘭も蘭だ、何であんなモンスターに大人しく撫でられてるんだ? 神パワーか?


「蘭ちゃんのオマケで着いてきたバイキンの癖に。あー生意気な人間、ほんと異世界人って信仰の『し』の字も知らないんだから! 」


「うっ五月蝿え! 蘭だってなあ、鷹の中じゃ神様みたいなもんだぞ! 頭が高いんだよ! 」


「あんたが神様に対して頭が高いのよ!」


 ギャースギャース言い合う2人。


「あんたみたいなオッさんなんて私の神域に相応しくないわ、子供に戻してやる!」

 

 女神の右手から突如不思議な光が出る。


「バルスっ! おっおい、何が子供に戻すだ! あっあれお前急にデカくなりやがっ……」


 女神が巨大化しただと!


「あんたが縮んだのよ間抜け! 私に逆らうからだわ! 子供に戻しても目付きは悪いし、生意気だし! 可愛くない!」


「ふざけんな戻せよ!」


「戻した所であんたは地球じゃ死んでんのよ! だから元の世界に居場所はありませーんだ! あんたなんかモンスターの餌になりなさい!」


 あっかんべーとか古過ぎだろ! 歳いくつだよ!


 突如足元に穴が開く


「はっ!?」


 俺は暗い穴に落とされた。意識が消えゆく瞬間に聞こえたのは性癖モンスターの笑い声と、「蘭ちゃんは私の神獣にしちゃうもんねえバーカ」と言う非常に不愉快な言葉だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 洋一が消えた後、蘭は神獣になる事を素直に喜べないでいた。


「さっ蘭ちゃんはどんな力にしましょうかねえ。神獣だしい、蘭ちゃんには魔法が似合うわ!魔導神まどうしんのスキルもあげるわ、後は後は〜蘭ちゃんとお話出来る様に叡智えいちをあげるわーーーそれ!」


 アルテミスの腕から蘭に強力な力が流れ込んでくる。


「わっ私は……」


「きゃわあああ蘭ちゃんが喋ったわあ! 素晴らしい、素敵! オレンジがかった目も可愛い! ワンダホー! ブラボー!」


 アルテミスが目の前で小躍りしながら喜んでいる


「アルテミス様過分な力を頂き感謝します。その先程は洋一が失礼な真似をして、すみませんでした」


「貴女のせいじゃないから気にしなくて良いわもうあちらの世界に送ったからね」


「アルテミス様あちらの世界とは? 」


「ああ、貴方達が転生する先の世界よ。貴方達は本来死ぬ運命じゃなかったのよ、なのに担当の馬鹿死神がさ、確認もしないで

『アレ死んでるじゃん。ラッキー仕事終わりー! 』

とか言いながら魂狩っちゃったのよ。だから地球に戻す訳には行かなくてね、とりあえずこちらに連れて来たって話よ」


「なっ成る程、なんと言うかその」


「あっごめんね? 大丈夫よ死神にはきついお仕置きしたからね? 許して? お願い! 」


 蘭に抱き着きながら謝るアルテミス


「地球とは違う世界何ですよね? 」


「そうよ魔法もあるし魔物もいるわ! だけど安心して蘭ちゃんはここに居れば危険な事は万が一も無いわ、まっ向こうに行っても貴女の力なら大丈夫何だけどね」


 バチコーンと下手くそなウィンクをするアルテミス。


「あーさっきの無礼者が気になる? 気になる? 女神パワーで今どうなってるか見せてあげるわ! 」


「ありがとうございます、女神様に無礼をはたらいたのですから罰は受けさせねばなりませんしね」


 アルテミスの心を読む力を惑わすために心にも無い台詞を言う。


 洋一の今の情報を引き出そうとするために。


 バレたら確実にアルテミスは毛嫌いしている洋一の情報を蘭には渡さないだろう。だから蘭は必死だった。



「蘭を返せええ!! 」


 叫んだ所で反応は無い、更に自分が何処にいるかもわからない。子供にされた今、辺り一面森しかない場所に置き去りにされたら待つのは死だ。


「あの痴女殺す気かよ。ゲームとかならステータスとか見えるんだろうけどさ」


 ステータスオープン、開けステータス! 色々叫んだり念じてみたが何も起きないし変わらない。


 ステータスがダメなら魔法だ!


 メラ、ファイヤ、ウォーター、アースニードル、ウインドアロー、風よ! 嵐よ! 竜巻よ! アバン○トラああしゅ! かめは○波ー!!


「何もでねえええええ!!!」


 夢も希望も魔法もない。あるのは若返った肉体と無駄に厨二ごっこして傷付いたハートのみ。


「はあ。とりあえず水だけでも探さなきゃ」


 鷹匠としての経験で森や林や山には慣れていたので気を取り直して歩く、歩く歩く歩く歩く歩く歩く。


「道が全然無い、ところどころに謎の骨みたいなのはあるし、まさかモンスターとかいないよな?」


 ひたすら歩いた、するとチョロチョロと水が流れる音がする。


「水だ!」


 俺は一心不乱に音の方へ走る。するとそこには肌は緑色、服は腰蓑こしみのを付けた、2人? が小便をしているところだった。


「あっハロー? こんにちわ? あのトイレ中大変失礼な話なんだけど、水持ってません?」


 クルリと振り向いた緑色の小人の顔は、目は黄色で吊り上がり、頭からは小さい角、口からは牙が生えていた。


「ぐぎゃっ! ぐぎゃっ!」


「あーあれ? 言葉が通じてないのかな?ボンジュール?」


「ぐぎゃっ! ぐぎゃっ! ぐぎゃっ!」


「いやあのぐぎゃっ! じゃ俺には何が何だか」


 棍棒を振り上げ、地面を叩き威嚇してくる。


「怒ってるう? あっあのすみません、トイレ中でしたもんね? あの怒りを鎮めてくださああああい!」


「ぐぎゃっー!」


 いきなり緑色の小人が大声を出す。


「あっこれやばいパターン? 仲間呼んじゃうパターン?」


 奥から草木の擦れる音とぐぎゃっ! ぐぎゃっ! と聞こえてくる。


「げえっ! 先手必勝逃げるが勝ち!」


 緑色の小人達に背を向け走り出そうとした時、頭にガツンと衝撃が走る


「いっつつ」


 緑色の小人達は頭を押さえて転がる俺をみて確かに笑った、ああこれ終わった喰われるパターンだ。


 蘭ごめんな、俺のせいでこんな訳の分からないクソビッチがいる世界に連れてきて。神獣が何かわからないけど、きっと悪い様にはされない筈。何とか生きてくれ、生きて幸せになってくれ。



「あっははは最初の変な動きに、魔力が無いのに、ひーひー魔法の練習、ひーひーゴブリンに話しかけるなんてバカの極み頭おかしいんじゃないの、何がボンジュールよ、何がこんにちわよ! 笑いすぎてお腹痛いー」


 蘭は内心腹わたが煮えくりかえるような思いだった。


「まじでうけるわあ、早く死なないかしら? 本当に人間何て作った創造神の気が知れるわ。あんな無能で無価値で不細工な生き物良く造れたわよねえ。特にさっきのオッさんあんなのを転生させなきゃ行けないなんて、最低最悪。あんなゴミがいたなんて事実が許せないわ。私の神殿が汚れたわ! 」


 洋一を罵倒しながらニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるアルテミス


「それは……」


「ん〜蘭ちゃん何かしら? 」


「洋一をバカにするなああああ!! 」


「ひえっ!? 」


 蘭は叡智と魔導神のスキルを発動する。


「神獣にして頂けた事、力をくれた事には感謝をします、ありがとうございました。でも私は貴女を許せない。洋一風に言うなら、サヨウナラクソビッチ」


「えっちょっと!! 」


  蘭は魔導神の力を使い、洋一と神殿の空間を繋げ飛び去る。


「待ってて洋一! 私が必ず助ける !」


 決意を込めて叫ぶ


「待ってよ蘭ちゃああああああああん! カンバッアアアアク」



 風を切る音が聞こえる。いつも聞いていた、蘭の飛ぶ音。


「ははは、最後の最後で幻聴かよ、俺は何処まで蘭に甘えて」


 言葉は続かなかった、何故なら俺の目の前に蘭がいたから


「洋一 助けに来たよ!」


「らーん!!!」


多重風槍マルチウインドランス


 蘭が何か唱えた、唱えたあれ? 蘭って喋れたのか? しかも魔法使ってるうう⁉︎ 風が緑色の小人達の首を見事に切り裂いていく。


「グロい、おえっダメだ蘭、吐く」


 緑色の小人達を倒し終えた蘭は洋一を振り返り見ると


「おええええ」


 そこには吐瀉物を吐き出してフラフラになった洋一が居た。


「洋一? 大丈夫? 回復魔法ヒール


 蘭が又何かを唱えると暖かい光に包まれ、気分が良くなっていく。


「あでぃがどう蘭」


「全く困った相棒だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る